成分が違うからその仲間ではない。でも語源も流通名も一致。そんな超ややこしい石…

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

『カンババ・ジャスパー』という名前だけど、ジャスパーの仲間ではない

さて、今回はリクエスト頂いた『カンババ・ジャスパー』のお話をいたしましょう。

いきなりで大変申し訳ないのですが、カンババ・ジャスパー、別名『クロコダイル・ジャスパー』とも呼ばれるこの緑色の石は、実はジャスパーの仲間ではありません。

しかしこの話を続けるには、そもそも「ジャスパーとは何か」ということをまずはご説明する必要があるでしょう。
先にご忠告申し上げておきますが、この石の説明はかなりややこしいです。できるだけ簡単に解説するよう努力いたしますが、皆さんも気合いを入れてお読みください。

では、まずジャスパーの解説から始めます。
ジャスパー(和名:「碧玉(へきぎょく)」)とは、石英(SiO2二酸化ケイ素のこと:水晶みたいなもの)とカルセドニー(和名:「玉髄(ぎょくずい)」)の微細な結晶が集まって出来上がった石です。

んで、カルセドニーとは、石英とモガナイト(石英と同じ二酸化ケイ素だけれど、結晶構造が石英とちょっと違う)の微細な結晶が集まって出来上がった石です。要するに非常に乱暴な言い方をするなら、ジャスパーとは、『水晶みたいなもの』と『結晶構造がちょっと違うけどまぁ水晶みたいなもの』の微細な粒が集まって出来上がった石だってことですね。

※以下は少々専門的な話になるので、脳味噌に余裕がある方だけお読みください。
結晶系には7つの種類があり、石英は低温では三方晶系(さんぽうしょうけい)、高温では六方晶系(ろっぽうしょうけい)という結晶構造を取ります。
一方、モガナイトは単斜晶系(たんしゃしょうけい)です。結晶構造がちょっと違うよって言っているのはこのためです。それぞれの結晶構造について解説していたらそれだけでこの記事が終わりますので、興味がおありの方はご自分でググって下さい。そう難しくはありません。

『ジャスパー』『アゲート』『カルセドニー』は見た目という大ざっぱな基準で分類

ジャスパーの構成要素のひとつである『カルセドニー』はとても幅広い品種を持つ鉱物です。有名どころだとカーネリアン(和名:「紅玉髄(べにぎょくずい)」もカルセドニーの仲間ですね。

(赤いカルセドニー:別名「カーネリアン」)

しかしここでカルセドニーの解説まで始めちゃうと、今回はそれだけで終わってしまいますので(それくらい種類が多い)、とっとと話をジャスパーに戻しましょう。

ジャスパーとよく混同される石として『アゲート(瑪瑙:メノウ)』があります。『ジャスパー』『アゲート』『カルセドニー』の簡単な見分け方としましては、その石のどこかに半透明な部分があったらカルセドニーで、縞模様があったりしたらアゲートで、全てが完全に不透明だとジャスパーです。

(縞模様が美しいアゲート)

しかし「ジャスパー」「アゲート」「カルセドニー」の区別はとても曖昧で、サファイアとルビーのような厳格な区別は行われていません。
というのも、二酸化ケイ素は地球上で2番目にありふれた鉱物(1番目は長石グループ)なので、きちんと種別分けがしきれていないのです。
成分としてはジャスパーもアゲートもカルセドニーもそう大差はありません。ぶっちゃけ、見た目の違いで名前を分けている(そのせいでカンババがジャスパー呼ばわりされている)のが現状ですので、あまり深く追求しないほうがこの記事の文字数的にも良いと思われます。

「カンババ・ジャスパー」の正体は、「流紋岩(りゅうもんがん)」の仲間

さて、ここで話を冒頭の「カンババ・ジャスパー」に戻しましょう。
さっきの見分け方だと、カンババ・ジャスパーは完全に不透明な石ですので、ジャスパーの仲間だと思ってしまっても無理はないでしょう。

(カンババ・ジャスパー:マダガスカル産)

この石、こんな模様と色合いをしているものですから、長年「藍藻(らんそう:シアノバクテリア、光合成を行う細菌の一種のこと)」と泥が層状に積み重なって出来上がった石(ストロマトライト)だと思われてきました。

しかし、ドイツのEPI(Institut für Edelstein Prüfung/エーデルシュタイン研究所:宝石試験機関)がX線で分析したところ、
そういう藻と泥が積み重なって出来上がった堆積岩(たいせきがん)ではなく、
火山岩(かざんがん:マグマが地表や地表付近で急激に冷えて固まった石のこと)の一種である「流紋岩(りゅうもんがん)」の仲間だってことが判明したんですよ。

「うわぁややこしい! 流紋岩なんて聞いたこともないわ…」という悲鳴がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて。
この連載でも題材にしたことがある『オブシディアン(黒曜石:こくようせき)』も流紋岩の仲間です。オブシディアンは聞いたことがおありでしょう?

(ガラス光沢が美しいオブシディアン)

じゃあカンババ・ジャスパー(ジャスパーじゃないんだけど)のあの緑色と黒色の模様は何なのかって話なんですが、あれ実は輝石(きせき)なんです。
輝石とは多くの火山岩に含まれる無色・緑色・褐色・黒色の鉱物なんですが、その輝石の中でも「エジリン輝石」って呼ばれる石がカンババ・ジャスパーには含まれています。

(エジリン輝石 化学組成: NaFe3+Si2O6 ちなみにこの「Fe3+(鉄)」が「Al(アルミニウム)」 に置き換わると翡翠(ひすい)になります。なかなか興味深いでしょ?)

(ヒスイ:新潟県糸魚川市産 これも輝石の仲間)

あとカンババ・ジャスパー(ジャスパーじゃないんだけど)に含まれているのは
「サンストーン」のコラムでも出てきた長石グループの中の『曹長石(そうちょうせき):ナトリウムが主成分』と『カリ長石(かりちょうせき:カリウムが主成分)』、
それと「金運UPの組み合わせ」の記事でも出てきた『角閃石(かくせんせき)』です。

ただ、あんまりこういう話ばっかりしていると、読者の方々の脳味噌がオーバーヒートしちゃう危険性がございますので、「まぁなんやかんやあるけどつまりカンババってジャスパーじゃなくて、流紋岩の仲間という意味で、オブシディアンの仲間なんだな」とだけ覚えておいてくださったらそれで十分です。

最初から『カンババストーン』って名前にすれば、よくね?

さて。この記事の冒頭で「今回の石の説明はかなりややこしい」とご忠告したことを覚えていらっしゃいますか?
あたしを含め皆さんが「ややこしいわ!」と思う内容は、世界中の人々にとっても同じように「ややこしい」ものなのです。
 
だって「ジャスパー(Jasper)」って言葉はギリシャ語の「斑点のある石(ἴασπις “spotted stone”)」が語源なんですよ?
んで、カンババって斑点が超あるじゃないですか。
でもジャスパーの仲間じゃないんですよ。

市場における流通名は「カンババ・ジャスパー」なのにねぇ。
そりゃみんな混乱するって(´・_・`)

この騒ぎに焦ったドイツのEPI(エーデルシュタイン研究所:宝石試験機関)は、「そもそもジャスパーじゃない石にジャスパーの名前をつけているから、こんな面倒なことになっているのだ」ということに遅まきながら気づいたようで、
『カンババ・ジャスパー』という名前を『カンババストーン』に置き換えるべきだと提案しています。
あたしも心からそう思いますので、さっそく仕切り直したいと思います!ヾ(´▽`)ノ

安いといい加減に定義されがち

まぁ、カンババストーンをこんな面倒な石にしてしまった最大の要因は、この石が安価な石であるせいでしょう。

これが高額で取引されるサファイアやルビーなら、販売業者さんも専門機関に鑑定を依頼し、化学組成をきっちり割り出して、産地や人工処理の有無を明記した鑑別書を用意してから販売経路に乗せるでしょう。

しかしカンババは、そんな手間暇をかけて元が取れるような高価な石ではありません。安価な石のニセモノをわざわざ作る人もいませんので、鑑別書も付きません。

つまり売り手も買い手も「その石が実はどういった石なのか」ということにこだわらないのです。おかげさんで「カンババストーンはジャスパーだ」という誤解が一向に消え失せない…というわけなんですよ、やれやれ(´_`;)

ここで、カンのよい方ならば、「安価で流通する石のことは誰も詳しく調べない」のなら、カンババと同じように安価で流通している様々な『ジャスパー』の中には、実はジャスパーではない石があるのではないか?…という疑問をお持ちになると思います。
 
その通りです。ナイス洞察力!(´・_・`)b

『バンブルビー・ジャスパー』は比較的高価だけど、その正体はやっぱり…


ジャスパーと名がつくものの中でも比較的高めのお値段で売買される石の中に、『バンブルビー・ジャスパー』というものがあります。バンブルビーとはBumblebee、マルハナバチのことです。

(まるっこいフォルムがかわいいバンブルビー)

(バンブルビー・ジャスパー:『マルハナバチのジャスパー』って名前がつくのもわかる色合いですね!)

さて。この記事の最初のほうで、あたしが申し上げたことを覚えていらっしゃいますか?
「ジャスパーとアゲートとカルセドニーの簡単な見分け方として、その石のどこかに半透明な部分があったらカルセドニーで、縞模様があったらアゲートで、全てが完全に不透明だとジャスパーだ」って話です。
このバンブルビー・ジャスパー、部分的に半透明ですし、何より縞模様がありますので、ジャスパーじゃなくてアゲートじゃないのかとまず疑問が浮かびますよね?

実はこの石、ツッコミどころはそこじゃないんです。
アゲートなのかジャスパーなのかという話以前の問題として、この石はそもそもジャスパーじゃありません。これは方解石(ほうかいせき:カルサイト)です。『サンストーン』の記事の最後のほうに出てきた「昔、バイキング達が雪雲の下で太陽の位置を知るために用いた」石の仲間です。

その方解石に鶏冠石(けいかんせき:As4S4)というヒ素と硫黄の塊みたいな石と、
黄鉄鉱(おうてっこう:パイライト)や赤鉄鉱(せきてっこう:ヘマタイト)という鉄の塊みたいな石が混ざって出来上がったのがこの『バンブルビー・ジャスパー(ジャスパーじゃないんだけど)』というわけなのです。

(ヒ素と硫黄の塊である鶏冠石。毒々しい色合い!)

「なんちゃってジャスパー」、まだまだあり

カンババやバンブルビー以外にも、「なんちゃってジャスパー」はたくさん存在します。
有名どころだと、「ダルメシアン・ジャスパー」や「レインフォレスト・ジャスパー」も実はジャスパーではありません。
正しくは、花崗岩(かこうがん)や流紋岩(りゅうもんがん)の仲間なんです。

(101匹わんちゃんみたいなダルメシアン・ジャスパー:花崗岩の仲間)

(レインフォレスト・ジャスパー:流紋岩の仲間)

つまり、「ジャスパー」「アゲート」「カルセドニー」系の流通名を持つ石に関しては、その名前が必ずしもその石の正しい鉱物名を示しているわけではないんだってことを覚えておいて下さい。ま、安価な石の宿命ですなぁ(´_`;)
 
おっといけない。話が結構長くなってしまいましたね!
『カンババ・ジャスパー(ジャスパーじゃないけど)』のお話はこれくらいでおしまいにいたしましょう。

それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

【紫乃女さんの最近ハマっているものをご紹介します!】

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。