ガーネット【前編】~まずは代表格の6種類から。これだけでも複雑なんですが…

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

代表格の6種類から入っていけば、ガーネットはそんなに怖くない

今回は1月の誕生石である『ガーネット』のお話をいたしましょう。

先にお断りしておきますが、ガーネットの解説は、前回の『カンババ・ジャスパー(ジャスパーじゃないけど)』以上にややこしくて複雑怪奇なものになると思います。
この石と石英グループと長石グループは可能な限り避けて通りたい(解説が面倒だから)のですが、まさか1月の代表的な誕生石の話をしないわけにも参りませんので、皆さんも腹をくくってお付き合い下さいませ。

それにガーネットは、あたくしこと紫乃女の誕生石でもありますしね!
All right, guys, let’s roll up our sleeves! (よし、みんな、気合入れていくぜ!)
ヾ(´▽`)ノ←1月生まれ
 
ガーネット 和名:柘榴石(ざくろいし)。
モース硬度は6.5から7.5。そこそこ硬めの石ですね(宝飾用として一般に流通しているガーネットのモース硬度はほぼ7.5です)。

『ガーネット』という名前は、「濃い赤」を意味する14世紀の中世英語“Garnet”が語源です。そしてその“Garnet”という言葉はラテン語の“Granatus”(グラーナトス:穀物・種子って意味)が由来となっています。

これはガーネットの色や結晶の形が柘榴(ざくろ)の種に似ていたからなんですって。日本語でこの石のことを「柘榴石」と呼ぶのも、頷(うなづ)ける話ですよねぇ。

ガーネットはたくさんの種類がある石です。それぞれ化学組成が少しずつ違います。
代表的なのは以下の6つですね。
 
1)アルマンディン(鉄礬柘榴石:てつばんざくろいし)
2)パイロープ(苦礬柘榴石:くばんざくろいし)
3)スペッサルティン(満礬柘榴石:まんばんざくろいし)
4)アンドラダイト(灰鉄柘榴石:かいてつざくろいし)
5)グロッシュラー(灰礬柘榴石:かいばんざくろいし)
6)ウバロバイト(灰クロム柘榴石:かいくろむざくろいし)

ここでそれぞれの化学組成をご説明していると、それだけでこの記事が終わってしまいますので、ここでは「ガーネットにはたくさんの種類があって、その中でも代表的なのは6種だ」とだけ覚えておいて頂ければそれで十分です。

※以下は化学組成にご興味がおありの方だけお読み下さい。

ガーネットは「ガーネットグループ」と「ガーネットスーパーグループ」の2種に大きく分類されます。
ガーネットグループは「32(SiO4)3」で、の部分にMg・Ca・Fe・Mnなどが入り、の部分にAl・Fe・Cr・Vなどが入ります(大雑把な説明ですが)。
(SiO4)3が共通していることに注目して下さい。その前が変わってもここが変わらないのがガーネットグループの特徴です。

つまりガーネットスーパーグループの場合、この共通部分が変わるのです。ガーネットスーパーグループの化学組成は「32 (O4)3」での部分にCaやFe、の部分にAlやCr、の部分にSiだけじゃなくAs、Vなどが入ることがあります。
要するにSiが他の元素に置換されたガーネットです。

IMA(国際鉱物学連合)やMINDAT(世界最大の鉱物データベース)はこの2つのグループを混同するな!と超やかましいのですが、モスアゲートを「モスカルセドニー」と正すことをせず、「もうその名前で定着しちゃっているから…」と匙(さじ)を投げている2大機関に、ガーネットをとやかく言う資格はないとあたしは思います。

この前編の記事では、ガーネットの化学組成の違いについてこれ以上詳しく述べるつもりはございません。ご興味がおありの方は『ガーネット【後編】』をご覧下さい。

世界一わかりやすいガーネットの基本図

その代表的な6種のガーネットは、含まれている元素によってそれぞれ色が違います。
その違いを非常にわかりやすく示した図がございますのでご紹介いたしましょう。 

“End members of the mineral garnet.”©Lina Jakaitė(Licensed Under CC BY 4.0)


まぁ超簡単に言っちゃうと、豚まん(関東では「肉まん」なんですってね)もあんまんも角煮まんも、外側の白い部分は同じだけど中身の具が違うので味が違うでしょ? ガーネットもそれと大差ありません。具が違うから色が違うだけですよ(´・_・`)b

さて、全国のガーネットファンの方々から石を投げられそうな解説をしたところで…、とっとと話を先に進めましょう!

赤色や黄色、緑色など様々な色のあるガーネットですが、代表的な色と言えばやはりアルマンディンの「深紅」でしょう。

(ガーネットと言えばやはりこの色!アルマンディン・ガーネット)


アルマンディンという名前は、1546年にトルコの“Alabanda”(アラバンダ)という街の名前にちなんで名づけられました。アラバンダは昔からアルマンディンの鉱石を宝石として、盛んに加工していたところなんですよ。

アルマンディンには鉄(Fe)が含まれているので色が暗めです。深紅以外だと茶色がかった赤色、赤紫色、黒味がかった赤色などがありますね。

(暗い赤色が特徴のアルマンディン。“blood red”:血の赤と呼ばれる)


アルマンディンよりはややすっきりとした赤色(アルマンディンより暗みが少ない)パイロープも人気のある石です。

(アルマンディンよりは明るい赤色をしたパイロープ・ガーネット)


パイロープという名前は、ギリシャ語の”pyropos”(パイロープス:燃えるような目って意味)が語源です。
パイロープには、血の色に近い赤色(アルマンディンぽい赤色)、オレンジがかった赤色、紫がかった赤色、ピンク色などの色がありますが、なんにせよ「赤系」であることに変わりはありません。
赤系以外の色の石が流通経路に出ないことが、パイロープの特徴と言えるでしょう。(※一切の不純物が含まれないパイロープは理論上無色透明になるはずです。まぁ滅多にありませんが。)

ところで、ガーネットにそこそこお詳しい方なら、「あれ? ロードライトっていうガーネットも無かったっけ?」と疑問に思われることでしょう。よくご存じで。もちろんございますとも。

ぶっちゃけ、赤系で一番有名なのが「ロードライト(Rhodolite)・ガーネット」です。
この石は何かと申しますと、アルマンディンとパイロープの、ちょうど中間あたりの色をしたガーネットのことなんです。深紅というほど暗い赤色じゃないけど、赤っていうにはちょっとピンク(紫)がかっている赤系のガーネットは「ロードライト」という名称で流通しています。

ロードライトは鉱物学的にはパイロープ・ガーネットの一種です。ローズピンク色から赤色のパイロープ・ガーネットを「ロードライト」と慣習的に呼んでいます。ロードライトという名前はギリシャ語の“rhodon”(ロドン:薔薇のようなという意味)が語源です。

(アルマンディンとパイロープの中間の石であるロードライト・ガーネット)

赤以外のガーネットも、たくさんあります

赤色系以外のガーネットもご紹介しておきましょう。

オレンジ色・黄褐色・赤褐色・茶色のガーネットを「スペッサルティン」と呼びます。
もともとは「マンガン・ガーネット」という味気ない名前だったのですが、1832年にこの石の産地であるドイツのバイエルン州にあるシュペッサルト山地にちなんで改名されました。
改名されてよかったですよ。だって1797年だとこの石の名前は”granatförmiges Braunsteinerz”(グラナートフェルミゲス ブラウンシュタイナーツ)だったんですもの。舌噛むっちゅーねん(´・_・`)

(グラナートフェルミゲス ブラウンシュタイナーツ、もとい、スペッサルティン・ガーネット)


ガーネットには緑色のものもございます。「ガーネットとは赤色の石」という概念を覆す石ということで、これまた人気のある色です。

ウバロバイト(ウヴァロバイト)というガーネットは、クロム発色独特の綺麗なエメラルドグリーンをしています。緑系以外の色はありません。

ウバロバイトという名前は、1832年にロシアの政治家兼学者さんであるウヴァーロフ伯爵にちなんで名づけられました。
ウバロバイトは一般的なガーネットの中で最も希少な石です。産出する結晶も小さく、宝飾用には向きません(結晶が小さすぎてお話にならない)。

(エメラルドグリーンが美しいウバロバイト・ガーネットの結晶)


「えっ、そうなの? 緑色のガーネットって結構見るけど…」というお声がここまで聞こえてきそうですが、ちょっと待ってください。
それは高確率でウバロバイトではなく、グロッシュラー・ガーネットの緑色のやつか、アンドラダイト・ガーネットの緑色のやつでしょう。
ウバロバイトは、指輪などに加工できるほど大きな結晶では産出しないからです。

グロッシュラーというものも登場したので、少しご説明します。
グロッシュラーは実に様々な種類の色があるガーネットなんですよ。
赤色・オレンジ色・茶色・黄色・緑色・ピンク色・無色と、もうグロッシュラーとアルマンディン(深紅)だけあったら、パープル以外のガーネットの色はだいたいカバーできるんじゃないかと思うほどです(´・_・`)

※この記事の最初のほうで紹介した「6種のガーネットの相関図」を思い出してくださいね。
グロッシュラーってちょうど6種の真ん中あたりにあるでしょ? つまりそれは「ウバロバイト寄りのグロッシュラー(緑色)」「スペッサルティン寄りのグロッシュラー(オレンジ色)」みたいな感じで、様々な色のグロッシュラーが存在する可能性を示しているんです。
でもなぜか、綺麗な紫色のグロッシュラーって出ないんですよねぇ。

バリエーション豊富な「グロッシュラー・ガーネット」、もう少し掘り下げます

グロッシュラーという名前は、“Gooseberry”(グーズベリー:植物学名は“grossularia” グロッスィーラーリア)という植物にちなんで名付けられました。
シベリアで発見されたこの石の標本が薄い緑色だったために、よく似た色をした植物の実の名前がついたそうです。

(グーズベリーの果実)


グーズベリーの果実には緑色・オレンジ色・赤色・紫色・黄色・白色・黒色と、様々な色があるんですが、ある意味グロッシュラー・ガーネットの色の多様性をよく表していると思いますね!

グロッシュラー・ガーネットの中で黄色~オレンジ色をしたものは「ヘソナイト(Hessonite)」と呼ばれることがあります。この名前の由来はちょっと伏せますね(あまりいい意味ではないので…)。
でも綺麗な石なので写真はご紹介しておきましょうか。そうだなぁ。オレンジ色はスペッサルティンで出しちゃったし、黄色いヘソナイトでもお見せしましょうかね。

(黄色いヘソナイト)


様々な色があるグロッシュラー・ガーネットですが、一番人気なのはやはり緑色でしょう。

(瑞々しい緑色をしたグロッシュラー・ガーネット)


緑色のグロッシュラー・ガーネットの中で、宝石質のものは「ツァボライト(Tsavorite)」と呼ばれることがあります。
宝飾メーカー『ティファニー社』の社長さんであるヘンリー・プラット氏(Henry Platt)が、この石が最初に発見された場所の近くにあるケニアのツァボ東国立公園(Tsavo East National Park)にちなんでそう名付けました。
あそこの会社、「ブルー・ゾイサイト」を『タンザナイト』と名付けたり、「グリーン・グロッシュラー・ガーネット」を『ツァボライト』と名付けたり、いくらプロモーションの都合があるといっても、ほいほい勝手な名前をつけすぎですよ!(ノ*`´)ノ⌒┻━┻

(ツァボライト:『タンザナイト』のコラムの最後にも登場するよ!)

ダイヤモンドのようなガーネット、あります。

では、いよいよ最後の6番目、アンドラダイトに移りましょう。
アンドラダイト・ガーネットはさらに3つの種類に分かれます。
黒色の『メラナイト』、緑色の『デマントイド』、黄緑色の『トパゾライト』です。


一番人気はやはり緑色のデマントイド(Demantoid)でしょう。鮮やかな緑色を誇る希少な石です。

しかしながらデマントイドと前述のヘソナイトのおかげで、あたしはガーネットのモース硬度を「7.5」と表記できません。デマントイドは他のガーネットに比べると少々柔らかく、モース硬度が6.5から7.0程度しかないのです(ヘソナイトは7.0)。
このコラムの最初で「ガーネットのモース硬度は6.5から7.5」とあたしが幅を持たせたのはこの石のせいです。皆さんもデマントイドの取り扱いには少しだけ注意を払うようになさってくださいね。

しかしその「他のガーネットよりモース硬度が低い」という欠点を補ってあまりあるほどのものが、デマントイドにはございます。その高い「ディスパージョン」です。

『スフェーン』のコラムの時に「ディスパージョン」の解説はしたと思うのですが、再度簡単にご説明いたしましょう。
石の中に光が入った時、その光が石の中で何度も何度も屈折と反射を繰り返すと、人間の目にはその石が「キラキラと虹色に光っている」ように見えます。その光の作用のことを「ディスパージョン(分散度のこと:宝飾用語では“ファイア”)」と呼ぶのです。

このディスパージョンの値が高ければ高いほど、その石は「七色にキラキラと輝く」のだと考えてください。
そしてそのディスパージョンの値はダイヤモンドで0.044、スフェーンで0.051、そしてデマントイドは0.057です。

デマントイドという名前は、古典ドイツ語で「ダイヤモンド」を指す「デマント(demant)」が由来となっています。このキラキラと光る石に、ダイヤモンドという名前を付けたくなった人の気持ちが本当によく理解出来ますよ!ヾ(´▽`)ノ

(ダイヤモンドより高いディスパージョンを誇るデマントイド)


おっといけない。
代表的なガーネットをご紹介しただけで、こんなに長い文章になってしまった。
これだからガーネットグループと長石グループの石の話は避けて通りたかったんだ! O(><o)(o><)o

しかしこれだけ文字数を消費したにも関わらず、まだ『ガーネット』という石の全てを語ってはおりませんし(基本の6種を紹介しただけだし)、ガーネットにまつわる伝承や、より詳しい鉱物学知識については何も触れていない状態です。

だからといって、あまり鉱物学の知識ばかり(ぶっちゃけ化学組成ばかり)語るというのも、そういったものにご興味が無い方にはご迷惑でしかないでしょう。
しかし実はガーネットの『真の面白さ』はその石の成り立ち、つまり「鉱物学知識」のほうにあるといっても過言ではないのです。
ですので、紫乃女としましてはその『真の醍醐味』を避けて通るのは本意ではございません。

というわけで、
この『ガーネット』のコラムは、「前編」「中編」「後編」の3部構成といたします。

・前編:ガーネットの代表的な石の軽いご紹介
・中編:ガーネットに施される人工処理とガーネットにまつわる伝承のお話
・後編:ガーネット特有の鉱物学知識の解説

という感じで語ってゆきたいと思います。
こうすれば、鉱物学知識に興味がおありではない方は、後編を飛ばして頂ければそれでいいわけですしね! 我ながらナイスアイデア!ヾ(´▽`)ノ

ではそんな感じで、皆さまもう少しお付き合い頂けますと幸いです。
それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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