ガーネット【中編】~冥府の神が恋に溺れた末に教えてくれた「意外な効力」とは?

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

前編に引き続き、『ガーネット』のお話です。
この回では、ガーネットに施される人工処理や伝承についてご紹介してゆきましょう。

ニセモノはほぼ存在せず。一見嬉しいけど、理由が喜ばしくはなく…

一般的に、ガーネットには照射処理(人工的に放射線を照射して内部の結晶構造を変化させて、色合いを変える人工処理のこと)や加熱処理は施されません。
なぜならガーネットには多種多様な色合いが存在する(詳しくは【後編】を参照のこと)ので、ルビーのように「血のような赤」でなければならないというルールがまずありません。あるいは、トパーズのように「青い色に加工したほうが高く売れる」という風潮もありません。
どんな色のガーネットにもそれぞれ需要があり、大きくて綺麗な結晶でカットが良ければ、石が何色でもそれなりの値段で売れるからです。

「それなりの値段」と申しましたが、ガーネットは宝飾用の石の中では決して高価な部類ではありません。ぶっちゃけ安価なほうです。
これがタンザナイトだっていうなら加熱処理で石本来の色である褐色を消し、美しい青の発色に変化させて、高く売りさばくこともできるのでしょうけれど。
ガーネットは元々安価で、しかもいろんな色合いが存在するのが当たり前で、おまけに「〇〇って石はやっぱり△△色じゃなくちゃね!」という風潮も無い現状では、わざわざ高いコストをかけてその石の色を変える必要がそもそもないのです。
しかも産出量が安定しているので、「超レアな石!」というほどのこともありません。ぶっちゃけ、「デマントイド」と「カラーチェンジ・ガーネット」以外はわりとありふれた石ですしね。

ガーネットのフェイク品(ニセモノ)もあまり見かけません。
高いコストをかけてニセモノを作ったところで、それほど高値では売れませんから。コストパフォーマンスが悪すぎるのです。

※一応『合成ガーネット』はあるにはありますが、一目見ればすぐに分かります。一切のインクルージョン(内包物)が無く、色も均一でガラスのように透明度が高い品ですから。そして一番の特徴はなんといっても超お手頃価格なその値段でしょう。販売側も「合成ガーネット」と明記なさっていることがほとんどなので大丈夫だとは思います。

まぁデマントイドならニセモノを作ってもそれなりの値で取引されるかもですが、デマントイドに大枚はたくようなお客さんは、たいてい鑑別書を要求しますしね。
まぁでも過去には、フローライトやガラスで作った「フェイク・ガーネット」が流通したこともございますので、どのような色のガーネットを買う場合においても、購入前に鑑別書は見せてもらうようになさったほうが安心だとは思います。
あと、あまりに安価なものには飛びつかないという自衛もお忘れなく(´・_・`)b

赤い宝石「カーバンクル」の代表格こそガーネット。「悪しきを遠ざける」と言われてきた

さて、ガーネットの処理や模造品に対する心配が払拭(ふっしょく:取り除かれること)されたところで、ガーネットにまつわる伝承のお話に移りましょう。

宝石の鑑定技術がまだない頃、赤い宝石は等しく『カーバンクル(carbuncle):ラテン語で「(燃える)小さな炭」のこと』と呼ばれていました。ルビーもレッド・スピネルも赤色系のガーネットも「カーバンクル」です。
しかし入手の容易さ&加工のしやすさを考えると、ガーネットの中でも深い赤色を誇る「アルマンディン」が「カーバンクル」と呼ばれることが多かったと思います。

カーバンクル(ガーネット)は歴史の古い石です。
たとえば古代エジプトでは、ミイラの装飾品やお守りとしてガーネットが使われていました。
エジプト第12王朝の王女さま“Sithathoriunet”という方のお墓からは、数々の美しい宝飾品が見つかっています。その中にはガーネットが使われているものもあるんですよ。

※“Sithathoriunet”…別称“Sithathoryunet”(「デンデラ(町の名前)のハトホル(女神の名前)の娘」って意味)。おそらくセヌスレット2世のお嬢さん。彼女の名前を日本語であえて発音するなら、シタソーリィゥネッかシタソユーノッが近い。ぶっちゃけ海外でもみんな結構好き勝手に発音するので困る。

(チェーン部分の赤い石はカーネリアン、胸飾り部分の赤い石はガーネット。紀元前1887年から1813年頃に製作された。現在はニューヨークのメトロポリタン美術館に収められている。)


エジプト以外だと、紀元前3世紀から2世紀あたりのギリシャからは、こんな装飾品が見つかっています。


これは「ヘラクレスの結び目」というデザインで、傷をいやす効果があると信じられてきたもの。
金で作ったその「結び目」にガーネットやエメラルドをちりばめることによって、「悪いものを遠ざける力」も宿ると、大昔のギリシャの方々は考えていたようなんですよ。
傷は治るし災厄はどこかへ失せるしで、まさに「一粒で二度おいしい」ってことですな!ヾ(´▽`)ノ

さっきも申し上げましたとおり、こういう古い時代の「カーバンクル」はガーネットであることが多いんです。ですのでカーバンクルにまつわる民間伝承の多くはガーネットの伝承の一部であると考えても良いでしょう。

(※『カーバンクル』という伝説上の生き物の物語をご存知ですか? 一説ではその生き物の額には、燃えるように赤い石が埋め込まれているんだそうですよ。そしてその真紅の宝石を手に入れた者には、富と名声が与えられるのですって。つまりこれも「ガーネット」の伝承の一つと言えますね。)

この「カーバンクル(ガーネット)は悪いものを遠ざける」という伝承は、サクソン人(現在の北ドイツあたりに住んでいたゲルマン系の部族)やケルト人(現在のベラルーシからアイルランド島あたりに住んでいた部族)の人達も持っており、戦いに赴く際にはガーネットがはめ込まれた腕輪などを着用していたそうです。
有名どころだと十字軍遠征に参加した騎士さんたちもガーネットを「傷を癒し危険から着用者を守るお守り」として大切にしていたそうですよ。

(ガーネットがはめ込まれた剣の柄。西暦8世紀頃の作品:Photo by portableantiques. Licensed under CC By 2.0)

略奪者というより被害者のハーデースに学ぶ『ガーネット』の効力

この「着用者を悪いものから遠ざける」以外にもガーネットの伝承は色々ございますが、その中でも有名なのをひとつご紹介しておきましょう。

ギリシャ神話における冥府の神であるハーデース氏に、愛の女神であるアフロディーテさんがいらんちょっかいを出したせいで(具体的には「その矢で射貫かれた者は最初に目にした者にベタ惚れする」というエロースの矢でハーデース氏を射た)、大地の女神デーメテールさんのお嬢さんであるペルセポネー嬢が、ベタ惚れ状態のハーデース氏に誘拐されるという事件がおきました。

(ペルセポネー嬢を誘拐するハーデース氏: “Rapture of Proserpine” ©Gian Lorenzo Bernini, CC BY-SA 4.0)


いきなり愛娘をさらわれたデーメテールさんは大激怒なさって、「娘が戻ってこないなら、もう大地のことなんか知りません!」とストライキを始めてしまったんです。
おかげさんで大地は荒れ果て、作物は全く実らず、人間も動物たちも飢えに飢えるという悲惨な状況になってしまいました。

この騒動に慌てた最高神ゼウスは使いをハーデース氏の元に送り、誘拐したペルセポネー嬢をお母さんの元に戻すよう説得しました。いったんはそれを了承したハーデース氏でしたが、ペルセポネー嬢を解放する際、彼女にザクロの実を差し出したのです。

冥府にさらわれていた間、ペルセポネー嬢は一切の飲食を拒んでいました。しかしやはり空腹には耐えかねたのでしょう、差し出されたザクロの実の中の4粒ほどを口にしてしまいました。


その後、ペルセポネー嬢は無事大地の女神であるデーメテールさんの元に戻りましたが、神様の世界では「冥府の食べ物を口にした者は冥府に属する者とする」というルールがあったのです。
ですので誘拐されたとはいえ、ザクロの実を食べたペルセポネー嬢は、食べた粒の数だけ(1粒あたり1ケ月)冥府で過ごさねばならなくなり、その期間中デーメテールさんは大地に実りを与えなくなりました。これが地上に冬が訪れるようになった理由だと言われているのです。

※蛇足ではありますが、ハーデース氏の名誉のためにちょっと申し上げておきます。
ペルセポネー嬢が誘拐される原因となったのは、彼女が愛の女神であるアフロディーテさんを馬鹿にしたので、怒ったアフロディーテさんの策略により、冥府にさらわれるよう仕組まれたのです。つまり、ハーデース氏はある意味巻き添えを食らっただけです。

しかも、一目惚れしたハーデース氏は、いきなり彼女をさらうようなことはせず、ちゃんと事前に彼女の父親であるゼウス氏に結婚の許可をもらいに行っています。で、ゼウスがペルセポネー嬢のお母さんであるデーメテールさんに相談もせずに許可を出したため、ハーデース氏は彼女を地下にある自分の居城へと連れていっただけなんです。

しかしペルセポネー嬢にとってはまさに「寝耳に水」ですから、当然お母さんと地上を恋しがってしくしくと泣き続けます。困ったハーデース氏はそれ以上彼女に強引なことはせず、出来得る限り丁重に扱い続けます。彼女が一切の飲食を断ったのは彼女の意志です。この件に関しては、あたしはハーデース氏にそれほどの落ち度は無いと思います。

その後あの二人、結構ラブラブでうまいことやってる様子ですから心配はいらないんじゃないでしょうか。それに彼、最高神のお兄ちゃんよ、めっちゃ玉の輿じゃん! ゼウスと違って女遊びもしないしねぇ。優良物件だと思うわ。

さて。ではここでちょっと考えてみて下さい。
なぜハーデース氏はペルセポネー嬢にザクロの実を与えたのでしょう?

…彼女に戻ってきてほしかったのでは?
たとえずっとじゃなくてもいいから、彼女に側にいてほしかったのではないでしょうか。

昔の人もそう考えたようで、不器用なハーデース氏と同じように、「戻ってきてほしい人」にザクロの名を持つ石『ガーネット』を預けるようになりました。友人や愛する人の無事の帰還を祈って、旅の安全を願って、この石をお守り代わりに渡すようになったのです。 

つまりはまぁ、この石は、誰かを「自分の元に戻したい」という用途にも使えるということですよ。アイデア次第では使い道がいろいろとありそうだなとお思いになりませんか?(´・_・`)b

おっと、結構話し込んじゃいましたね。
では、『ガーネット【中編】』はここらへんでおしまいにいたしましょう。 

それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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