ガーネット【後編】~ややこしい化学式の分析の末に見えてくるシンプルな世界

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

とにかく語ることが多い『ガーネット』。3部作の大作となりましたが、いよいよ最終章【後編】となります。

この回では主に、ガーネットの鉱物学的な内容について解説いたします。鉱物知識にご興味がおありでない方は、ここで回れ右なさって下さいませ。

【前編】で登場の6種は「理想的な化学式」となっているもの

【前編】では、基本となる6種のガーネットについてご説明したと思います。

1)アルマンディン
2)パイロープ
3)スペッサルティン
4)アンドラダイト
5)グロッシュラー
6)ウバロバイト

の6種です。

ガーネット自体は15種類ありますが、残り9種類のガーネットからは宝石質のものが出ないので、この記事ではその9種類を除外します。

これら6種は「エンド・メンバー(end members)」と呼ばれる石です。
エンド・メンバーとは、鉱物学の分野で「その鉱物を構成する主要成分を表す表示法」のこと。日本語で「端成分(たんせいぶん)」と言います。
聞き慣れない言葉でしょうから、ちょっと詳しく解説いたしますね。

【前編】でも出てきたこの「ガーネットのエンド・メンバー紹介図」をご覧下さい。

End members of the mineral garnet.”©Lina Jakaitė(Licensed Under CC BY 4.0) 


アルマンディンを例にとりましょうか。
アルマンディンの化学組成は「Fe3Al2(SiO4)3」です。簡単に言っちゃうと「鉄(Fe)」と「アルミニウム(Al)」が「ケイ酸塩(SiO4)」っていうガーネットグループの共通部分にくっついている感じです(ケイ酸塩の説明は専門的になるので省きます。ググればすぐHITしますよ)。
 
でね、正直なことを申しますと、そのガーネットグループ共通部分に、鉄とアルミニウム“だけ”がくっついているアルマンディンなんて滅多にありません。なんだかんだと他の元素も混じっちゃっているのが現実です。

つまり「エンド・メンバー(端成分)」とは『その鉱物にとっての理想像』なんです。「Fe3Al2(SiO4)3」とはアルマンディンにとっての「理想的な化学式」なんです。
「鉄とアルミニウムがケイ酸塩にくっついているのがアルマンディンの理想の状態なんだけど、現実には他にもいろいろ混ざっちゃってるよねぇ。でもこれが主成分である限り、『アルマンディン』って名前でこの石を呼ぶよ。いいね?」っていう、鉱物学におけるひとつの「お約束」なんですよ。

ガーネットの多くは、複数種のガーネットが混ざったもの

なんでこんな面倒なことになっているのかと申しますと、ガーネットという鉱物は『固溶体(こゆうたい)』なんですよ。
『固溶体』とは「2種以上の物質が互いに溶け合い,全体として均一な相を成す固体混合物」のことを指すんですが、ガーネットはまさにそれなんです。
ここはちょっと難しいかもですね。少し補足説明をいたしましょう。

ガーネットってね、2つ以上の金属元素(鉄とかアルミニウムとかマグネシウムとか)が互いに溶け合い、混ざり合って、均一な状態になっちゃっている石なんです。
つまり、アルマンディンにちょこっと(同じくエンド・メンバーである)パイロープが混ざりこんじゃったもの(鉄とアルミニウムだけのはずのアルマンディンに、少量のマグネシウムが混ざりこんで均一な状態になってしまっている)。
あるいは、アルマンディンにちょこっと(これもエンド・メンバーの一種)スペッサルティンが混ざりこんだものとか(鉄とアルミニウムだけのはずのアルマンディンに、少量のマンガンが混ざりこんで均一な状態になってしまっている)。
そういう「Aというガーネットの理想像にBの(場合によってはBとCの)ガーネットの金属元素も混ざっちゃった」状態の石が数多く産出するのがガーネットの特徴なんです。

おかげで、一種類の理想像の(エンド・メンバー状態の)ガーネットなんて滅多にお目にかかれません。たいてい別のガーネットも混ざっています。
『ロードライト』なんかまさにそれですね。ロードライトはパイロープにアルマンディンが混ざってしまっている石なんですよ。ちょっと図にしてみましょうか。


この図の真ん中あたりにある「ウンバライト(別名:マラヤ)」っていうガーネットなんか、パイロープとスペッサルティンが混ざったものと、そこへさらにアルマンディンまで混ざっちゃったものがあるんですよ!

おかげさんで一言で「ガーネット」と言っても、同じ石とは思えないほどのカラーバリエーションが生まれてしまいました。混ざり具合で色が微妙に変わるものですから、もう多種多様にも程がある有様です。

多種多様すぎる『ガーネット』も、2種類まで絞り込めちゃった!

しかしご安心ください。この惨状にも救いはありますよ。
「そんなものにイチイチ固有名称つけてられるかい!」と頭に来た方々が、過去にも大勢いらっしゃったのでしょう。

「アルマンディン」「パイロープ」「スペッサルティン」の3つの石をまとめて『パイラルスパイト系(パイロープの“pyr”+アルマンディンの“al”+スペッサルティンの“sp”+ite:ギリシャ語で「石」とか「岩」を表す“ites”に由来する)』と呼びます。
「アルマンディン」「パイロープ」「スペッサルティン」の3種限定ですが、この3種なら何がどう混ざろうとも全部「パイラルスパイト系」です。
どうです? だいぶすっきりしたでしょう?ヾ(´▽`)ノ

ちょっと専門的な話になりますが、
この3種の石が1つのグループになっているのには理由があるのです。

アルマンディンは「鉄+アルミニウム+ケイ酸塩」
パイロープは「マグネシウム+アルミニウム+ケイ酸塩」
スペッサルティンは「マンガン+アルミニウム+ケイ酸塩」です。

気付きましたか? 3種の石全てに「アルミニウム」が含まれているでしょう?
つまり「パイラルスパイト系」とは「ガーネットグループの中のアルミニウム組さん」のことなんですよ。

同じように、「ウバロバイト」「グロッシュラー」「アンドラダイト」の3種をまとめて『ウグランダイト系(ウバロバイトの“u”+グロッシュラーの“gr”+アンドラダイトの“and”+ite)』と呼びます。


【前編】に出てこなかった「グランダイト(別名:マリ)・ガーネット」ですが、これはアンドラダイトとグロッシュラーの中間くらいの石です。つまりはまぁ両方が混ざりあっているってことですね。

こうやってイチイチ別名称をつけるのが面倒な業者さんは、「グランダイト・ガーネット」を単純に「アンドラダイト-グロッシュラー(Andradite-Grossular)・ガーネット」として販売なさいます。
いいことですよ、いらぬ誤解を招きませんしね。ロードライトもそうしてくれればいいのに!

再度専門的な話になりますが、
この3種の石が1つのグループになっているのには理由がございます。
ウバロバイトは「カルシウム+クロム+ケイ酸塩」
グロッシュラーは「カルシウム+アルミニウム+ケイ酸塩」
アンドラダイトは「カルシウム+鉄・チタン+ケイ酸塩」です。

3種の石全てに「カルシウム」が含まれているでしょう? つまり「ウグランダイト系」とは「ガーネットグループの中のカルシウム組さん」のことなんですよ。

「グロッシュラー」こそ『ガーネット』をややこしくしている真犯人

「おや、あんなにたくさんの種類があったガーネットも、分類が済めば、たった2つの組に振り分けられるじゃないか」というほっとしたお声がここまで聞こえてきそうですが、ちょっと待ってください。安心なさるのはまだ早いのです(´・_・`)

この図を出すのは3度目ですが、この図の真ん中をよくよく御覧下さいませ。


この図のど真ん中に位置する「グロッシュラー」は、『パイラルスパイト系』と『ウグランダイト系』の両方を繋いでいるでしょう?

この石の化学組成にご注目ください。グロッシュラーの化学組成は「Ca3Al2(SiO4)3」、アルミニウムもカルシウムも入っているんです。
つまり2つのチームの特徴を両方とも兼ね備えていやがるんですよ! おかげで様々な色のガーネットが出まくる事態になったというわけですo(><o)(o><)o

グロッシュラーさえ無ければ、ガーネットの色合いはここまで多種多様にはならなかったと思います。
皆さんが「ガーネットの話だけなんでこんなにややこしいんだ!」と頭を抱えることになったのは、ガーネットが『固溶体(金属元素が混ざりまくっちゃうぜ!)』であるせいと、あとはだいたいこのグロッシュラーのせいですね。

さらに恐ろしいことを申し上げますと、実は「ハイドロ・グロッシュラー・ガーネット」ってやつもあるんです。
【前編】の最初のほうで「ガーネットには『ガーネットグループ』と『ガーネットスーパーグループ』の2種がある」って言ったのを覚えていらっしゃいますか? スーパーがつくほうは、基本の「(SiO4)3」が他のものに置き換わっているって。
ハイドロ・グロッシュラーはまさにそれです。ご興味がおありの方は「ヒブシュ柘榴石(hibschite)」でぜひググってみてください。グロッシュラーを殴り倒したくなりますよ!

白熱灯と太陽光で、色が変わる「カラーチェンジ」

さて。面倒な話が続きましたね。
ここまでご辛抱くださった方のために、ちょっとレアで美しいガーネットの変わり種のお話でもいたしましょうか。


パイロープとスペッサルティンの中間石には「カラーチェンジ」効果のあるガーネットもございます。この2種の石の中間石は色々ございますが、その中でカラーチェンジを起こすものは結構レアです。
ウンバライト(別名:マラヤ)にもカラーチェンジ効果を起こすものはあるんですが、普通、この効果がある場合、「カラーチェンジ・ガーネット」という名称で販売されますね。お値段も特別扱いです(´・_・`)b

(白熱灯の下では赤色に、太陽光の下では緑色に光るカラーチェンジ・ガーネット)


本来なら単屈折(たんくっせつ:石の中に光が入った時、そのまま1本の光として進むこと。光が2本に分かれるものは複屈折と呼ぶ)であるガーネットに、カラーチェンジが起きること自体が珍しいのですが、
いろんな金属元素が混じり合ってくれているおかげで、こういった特殊効果のあるガーネットも生まれるのです。ガーネットのややこしさにはそれなりの「良い面」もあるということですなヾ(´▽`)ノ

ガーネット【後編】、そろそろおしまいにいたしましょう。
全3回の連続ドラマとなったガーネットの記事、いかがだったでしょうか?
それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

【紫乃女さんの最近ハマっているものをご紹介します!】

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。