たまには宝石らしくない宝石の話でも。新年一発目は地球外物質『隕石』から

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

明けましておめでとうございます。
旧年中はお世話になりました。
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、新年1回目のコラムでは『隕石』についてお話したいと思います。

隕石を知るには、まずは「メテオライト」と「テクタイト」の違いから

宇宙から地球にばびゅーんと飛んできた石のことを日本語では「隕石(いんせき)」と呼びます。英語だと「メテオライト(Meteorite)」ですね。
ただ、日本では「メテオライト」と、メテオライトによって発生した「テクタイト(Tektite)」の区別がはっきり成されていないように思いますので、まずはその違いを軽くご説明いたしましょう。

メテオライトとは、地球に飛来してきた隕石が、地球の大気圏内で気化せずに(簡単に言うなら「燃え尽きずに」)ある程度の質量を保ったまま、地表に激突しやがった迷惑な石のことを指します。

たとえば、ナミビア共和国(アフリカ南西部の国)に約8万年前に落ちたと言われる『ホバ隕石(Hoba meteorite)』はメテオライトに分類されます。60トン以上の重さがあるそうですよ!

(現在確認されている隕石の中で最大級の大きさを誇るホバ隕石。隕石の約84%が鉄、約16%がニッケルで構成されている)

(『ホバ』とはコエコエ語(南アフリカの民族言語)で『贈り物』って意味なんだそうですが、こんなでっかい鉄の塊が頭の上に降ってきたら「天からの贈り物」なんて悠長なことは言っていられませんよ。危ないっちゅーねん!o(><o)(o><)o)


まぁホバ隕石は8万年前だからまだいいですが、最近ですと2013年2月15日、ロシアのチェリャビンスク州(Челябинский)に太陽よりも明るい光を放つ流星が降り注いだことがありました。ご存知の方もいらっしゃるのでは?

そいつは地球の大気圏に超音速(マッハ60以上!)で突入した後、チェリャビンスク州上空で複数の破片に分裂しました。大気中を物体が音速を超える速度で移動すると、「ソニックブーム」という衝撃波が生じるのですが(ソニックブームの原理を説明するのはめんどくさいので、ご興味がおありの方はご自分でググってください)、スペースシャトルでさえマッハ1.5だというのにこの隕石、その40倍以上の超音速で突っ込んできやがったんですよ!

※マッハ(Mach)=音の速度のこと。1気圧&気温15度なら音は1秒間に約340m進む。時速だと約1224km。

しかも地上30kmくらいの上空で爆発したので、チェリャビンスク州の人々は降り注ぐ火の玉と広島型原爆のおよそ26倍から33倍という爆風(衝撃波)に襲われることになってしまいました。
幸い死者は出ませんでしたが、1500人以上の方が怪我を負われたそうです。世の中にはな、やっていいことと悪いことがあるんだぞ、隕石!o(><o)(o><)o

(発見されたチェリャビンスク隕石の破片の中で最大のもの:©Lumaca “Chelyabinsk meteorite. The State Museum of the South Ural History (Chelyabinsk)”: Licensed Under CC BY-SA 4.0)


こういう、「大気圏内で燃え尽きずに惑星の表面に落ちてきた石本体」のことを「メテオライト」と呼ぶのです。

これに対して「テクタイト」とは、隕石が地表に衝突した際、その衝撃と熱で溶かされて(ちゃんというなら蒸発気化して)上空へと舞い上がった地球の物質が、上空の冷たい空気で急激に冷え固まった(再度固形化した)物のことを指します。隕石のクレーター付近でよく見つかりますよ。

つまり「テクタイト」とは、基本的には地球の物質です。
そりゃ多少は宇宙由来の物が上空で混ざることもあるでしょうけれど、メテオライトのように“その石全て”が地球の外からやってきた物質というわけではないんです。
ここが大きな違いですね(´・_・`)b

メテオライトを学ぶには、「NWA869隕石」「ギベオン隕石」から入りましょう

では、次に「メテオライト」にはどのような種類があるのかをご説明したいところなのですが、実はメテオライトは鉱物学的には非常に細かく分類されており、その全てをこの記事で詳細に語るには無理があります。

日本語のWikipediaだと『隕石』は「鉄隕石(てついんせき)」・「石鉄隕石(せきてついんせき)」・「石質隕石(せきしついんせき)」の3種類にざっくりと分類した後、さらに鉄隕石を3種類、石鉄隕石を2種類、石質隕石を2種類に細分化しています。

一方、鉱物学に忠実に分類するのなら、たとえば「石質隕石」だと、「石質隕石」を「コンドライト(『コンドルール』っていう球状の粒子が含まれている)」と「エイコンドライト(コンドルールが含まれていない)」の2つに大きく分類した後、その「コンドライト」をさらに60種類に細分化するんです。
60種類だよ60種類! コンドライトだけで60…。

誰だよ、分類担当したのは? 何でもかんでも細かく分けりゃいいってもんじゃないんだよ。学ぶほうの身にもなれ!(ノ*`´)ノ⌒┻━┻

(コンドライト隕石の中に含まれる球状の粒子『コンドルール』。ちなみにこの隕石は「石質隕石」の中の「コンドライト隕石」の中の「普通コンドライト隕石」の中の「L(型)コンドライト隕石」の中の「L3(型)コンドライト隕石」です(´・_・`) …ね? 腹立つでしょ?)


もしあたしが鉱物学に沿って隕石のお話を続けたならば、今年1年はずっと隕石の話が続くことになってしまうと思いますので、ここではメテオライトとしてある程度知名度のある石だけに話を絞って解説してゆきたいと思います。

まぁ地球外からやってきた鉱物ですから、メテオライトは総じて高額です。流通量も限られますしね。そんな「限られた流通量」の中で最もメジャーと言っていいのが「NWA869(Northwest Africa 869)隕石」の名を持つコンドライト隕石です。

(NWA869隕石)


ちなみにこの石は、「石質隕石(ケイ酸塩が主成分)」の中の「コンドライト隕石(コンドルールっていう球状の粒子構造を持っている)」の中の「L(型)コンドライト隕石(コンドルールの含有量が石全体の60%から80%ほどで、その粒子の大きさの平均が約0.7mm)」の中の…って、これ以上小難しいことを言うのは止めておきましょうか(´_`)

この隕石はその名が示すとおり、Northwest Africa、つまりアフリカ北西部(アルジェリアとかモロッコ周辺)で採取される石です。流通しているメテオライトの中でこの「NWA869隕石」はかなりの流通量と知名度を誇る石でしょう。

レアな存在であるはずのメテオライトにしては、なんとビーズ加工品まで出回っています。10mm玉のブレスレット1本が2万~3万円と結構お高いですけどね! でも一粒売りをしているお店もありますから、必要な分だけ買えば入手コストを抑えられるでしょう。

(NWA869隕石のビーズ加工品)


「NWA869隕石」と同じくらい有名&人気が高いのが「ギベオン隕石(Gibeon meteorite)」です。この2つがビーズ加工品として手に入れられる「2大メテオライト」でしょう。

ギベオン隕石はほぼ鉄の塊だが、美しい結晶構造を持つ

ギベオン隕石は、アフリカ南部のナミビア共和国で発見された石です。ナミビアのギベオン村を中心として発見されることが多い隕石なので、こんな名前になりました。
ギベオン隕石は「鉄隕石」に分類される隕石で、その90%以上が鉄(91.8%が鉄・7.7%がニッケル)で出来ています。要するにほぼ鉄の塊ですな(´・_・`)

なんでこの隕石が有名になったかと申しますと、この隕石は『ウィドマンシュテッテン構造』という、美しい網目状の結晶構造を持っているからなんです。
これは説明するより先に写真を見て頂いたほうが話が早いでしょうね。

(ギベオン隕石をスライスした断面を研磨し酸処理を行ったもの。網目状の模様は「ウィドマンシュテッテン構造」と呼ばれる:By Kinda Kinked – Flickr: IMG_1761, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=20032830

(スライス断面を拡大したもの:By kevinzim / Kevin Walsh – widman, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2572757


この美しい「鉄とニッケルの結晶構造」が「ウィドマンシュテッテン構造」です。綺麗でしょう?

「なんでそんなややこしい名前なの!?」という悲鳴がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて!
この結晶構造に最初に注目したのが、オーストリア(ウィーン)の「アロイス・フォン・ベッカー・ウィドマンシュテッテン(Alois von Beckh Widmanstätten)」伯爵だったんです。つまり人名なんですよこれ。
たまたま長い名前の人がこの構造について「自分が発見者である!」と名乗りを上げたので、その人の名前がついちゃったってわけなんです。

※これは蛇足だとは思いますが、一応。
ウィドマンシュテッテン構造を最初に発見したのは、本当はウィドマンシュテッテン伯爵ではなく、イギリスのウィリアム・トムソン(William Thomson)氏です。
ですので本来であれば、この結晶構造は『トムソン構造』と呼ばれるべきものなんです。なぜ若くして亡くなられたんですか、トムソン先生! おかげで後世の我々は長ったらしい名前に苦しめられる羽目になったじゃないですか…。ウィドマンシュテッテンよりトムソンのほうが断然言いやすいのに!んもー!(ノ*`´)ノ⌒┻━┻

この独特な模様は何も、ギベオン特有のものというわけではありません。主成分が鉄で10%前後のニッケルを含む鉄隕石だったら、こういう結晶構造を持つ隕石は他にもいくつもございます。
ただ、そういう鉄隕石の中でもギベオン隕石の知名度が一番高かったので、「ウィドマンシュテッテン構造」=「ギベオン隕石」って構図が出来上がりました。
あの有名な時計メーカー『ロレックス』さんが、超お高い時計の文字盤としてこの隕石のスライスを採用したことでも、知名度が爆上がりしましたしね。興味がおありの方は「ロレックス」「デイトナ」「メテオライト」でググればすぐHITしますよ。

「NWA869隕石」同様、「ギベオン隕石」もビーズ加工品がたくさん流通しています。

(ギベオン隕石のビーズ加工品)

ギベオン隕石は希少なはずなのに、たくさん出回っていて値段も手頃…??

さて、ここでギベオン隕石を買い求めようと思っていらっしゃる方々に、ちょっとしたご忠告を申し上げたいと思います。

ギベオン隕石は、現在までに発見されている総量が約2.6トンです。1950年2月15日にナミビアの政府が「ナミビアで見つかった全ての隕石は国定記念物とする」と定めたため、それ以降、新しく発見されたギベオン隕石が流通経路に乗ることはありません。発見された場所から動かすことも禁じられています。

つまり、現在市場に出回っているギベオン隕石は、過去誰かの手に渡った品が回りまわっているだけだということになります。
その割には膨大な量のギベオン隕石が楽天などのサイトで気軽に販売されていますよねぇ? お値段もとびっきりお高いってわけでもない。NWA869隕石より安価なくらいです。

…おかしな話だとお思いになりませんか?

ではここで、先ほどあたしが申し上げたことを思い出して下さい。
「ウィドマンシュテッテン構造は何も、ギベオン特有のものというわけではない。主成分が鉄で10%前後のニッケルを含む鉄隕石だったら、こういう結晶構造を持つ隕石は他にもいくつもある」んです。
例えばスウェーデンの「ムオニオナルスタ(Muonionalusta)隕石」もギベオン隕石と同じようなウィドマンシュテッテン構造を持っています。この隕石もギベオンと同じ鉄隕石ですから、同じように研磨して酸処理されたら、ぱっと見区別つかないですよ。

ま、現在『ギベオン』の名称&そこそこお手頃価格で販売されているものは、ナミビアの『ギベオン隕石』ではなく、スウェーデンの『ムオニオナルスタ(ムオニナルスタ)隕石』である可能性が非常に高いです。鑑別書も「アイアン・メテオライト(鉄隕石)」としか書かれていないでしょう。

逆に本物のギベオン隕石なら、それを証明できる何かがあることを販売店側は大々的に宣伝するはずです。お値段も跳ね上がると思います。
でもまぁ、どっちに転んだって鉄9割ニッケル1割前後の鉄隕石に変わりはないんですけどね。

つまり、あなたがあの独特な模様を示す鉄隕石が欲しいだけなら、ぶっちゃけギベオンにこだわる必要はありません。「キャニオンディアブロ隕石」でも出ますしね、アレ。

(ウィドマンシュテッテン構造を持つキャニオンディアブロ隕石:By James St. John – Flickr: Canyon Diablo Meteorite, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15757325


でも「『ギベオン』が欲しいの!」という場合は、毎回申し上げております通り、その石についている鑑別書をチェックしましょう
単に「鉄隕石」と書かれているだけじゃだめです。鉄隕石はたくさんあるんですから。
きちんと「ギベオン/ナミビア」と明記されているものを選びましょう。
あと、あまり安価な品には飛びつかないこともお勧めしておきます。

おっといけない。「テクタイト」まで話が回らなかったな。
『モルダバイト』や『リビアングラス』のお話もしたかったんですけどね。では後日改めて「テクタイト」のお話もするようにいたしますよ。

それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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