紫以外は認めない2月の誕生石『アメシスト』。メンタルコントロールにもうってつけ

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

今回は2月の誕生石である『アメシスト』のお話をいたしましょう。

日本では一般的に『アメジスト』と呼ばれるこの石ですが、実は「アメスト」の発音の方が正しいです。鉱物としての正式名称は音が濁らない『アメシスト』が採用されていますので、このコラムでも「アメシスト」の呼称で統一したいと思います。
(※ぶっちゃけ、日本国内だけならアメジストでも問題ないと思いますが)

「Amethyst」の綴りの中の「th」って、発音が二通りあるんですよ。
Thank you“ は「ンキュー」でしょ? 「ンキュー」と発音する人はいませんよね。
でも”This”は「ディス」。「ィス」と発音する人はいないはず。
つまり「th」の音は「濁る場合」「濁らない場合」の二通りがあるんです。
しかし「th」の発音自体は日本語にはない。そして「アメスト」と「アメスト」なら後者のほうが言いやすい。なので英語教育がまだそこまで盛んではなかった時代に、『アメスト』という名称のほうがうっかり浸透してしまったんでしょうね。

まぁ、知識として、鉱物や宝石としての正式名称は『アメシスト』、流通名なら『アメジスト』でも十分通じると覚えておかれればよいと思います。なぁに、面倒なら「紫水晶」って言えばいいのさ! 日本語って超便利ヾ(´▽`)ノ

アメシストなのに黄色いものが存在する

さて。そんなこんなでアメシストです。和名:紫水晶、モース硬度:6.5から7程度。化学組成はSiO2石英(水晶みたいなもの)の仲間です。

アメシストの色は淡いライラック色から濃い紫色までと結構幅がありますが、紫色が主体であることに変わりはありません。

(淡いライラック色のアメシスト:ブラジル産)
(濃い紫色のアメシスト:ブラジル産。ブラジルはアメシストの有名な産地)


なぜアメシストが紫色なのかという説明をここで行うと、最初の3行あたりで大半の方が回れ右してしまうと思いますので、ここでは「アメシストの紫発色に興味がある方は、ご自分で調べて読んでみてくださいね」くらいで留めておこうと思います。

ただ、注意しておいて頂きたいのは、「アメシストの『紫色』は“非常に不安定”である」ということです。紫外線に長時間晒(さら)されると、その美しい紫色を少しずつ失ってゆくでしょう。紫外線だけでなく高熱にも弱い石で、300℃から400℃に熱せられると、黄色・オレンジ・茶色へと変色していきます。

ところで、アメシストと同じ石英の品種で『シトリン(黄水晶)』という石があるのですが、加熱すると黄色になるというアメシストの性質を利用して人工的に造られた「加熱処理アメシスト」が「シトリン」の名称で流通することがあります。市場で一般的にみられるシトリンは、アメシストを加熱処理したものである確率が非常に高いですね。

(アメシストを加熱処理して黄色に変色させたもの。シトリンの名称で流通する)


厳密に言うなら、シトリンが黄色に発色する理由(原因)と、加熱したアメシストが黄色に発色する理由(原因)は違います。その違いをここで詳細に説明し始めると、最初の3行あたりで大半の方がやはり回れ右してしまうと思いますので、ここでは、「アメシストを加熱処理して黄色くしたものは、厳密には本物のシトリンとは違うものだよ」とだけ覚えておいてくださったら十分です。

まぁ、アメシストを加熱したくなる気持ちはわからなくもありません。天然のシトリンってね、実は産出量がとても少ないんですよ。なかなか採れないの。
でも金色の石って「富と繁栄をもらたす」とかいって、昔から人気がありますからねぇ。

市場のニーズに応えようと思ったら「人工シトリン(=加熱処理を施したアメシストかスモーキークォーツ)」を大量生産するしか手がないのが現状です。
要するに、世の中は世知辛いということですな!

アメシストとシトリンが合体!? ニセモノの見分け方も教えます。

世知辛いで思い出しましたが、世の中には「アメシストとシトリンが組み合わさった石」と言われている『アメトリン』というものがございます。 

(アメトリン:ボリビア産)


紫色と黄色のコンビネーションが非常に美しい石なのですが、「美しい石→ニーズが高まる→ニセモノ(合成品)が溢れる…」という負のスパイラルに見事に陥っている石でもあります。

一番簡単な「本物のアメトリンの見分け方」は、紫色と黄色の境目がはっきりくっきりしているかどうかですね。すぱっと色が分かれていたらまずニセモノです。
あとは産地かな。現状ボリビアが主要産出国なので、ボリビア産以外のアメトリンは疑ってかかったほうが無難でしょう。

※さらに言うなら、アメトリンの紫色の部分は確かにアメシストだけれども、黄色の部分は厳密にはシトリンではないという意見もあります。


こういう「重箱の隅をつつく」ことにかけてはMINDAT(世界最大の鉱物データベース)さんの右に出るものはいないでしょう。MINDATは「シトリンの黄色発色の最大の要因をアルミニウムの照射誘発色」としているので、鉄を主たる要因とする黄色発色だけではご不満なようです(あと、偏光も重視している。加熱アメシストは偏光において二色性を示さない)。
まぁでも今回はアメシストのお話なのですし、シトリン関連の話はこれくらいにしておきましょう。

緑色をした「グリーン・アメシスト」はアメシストではありません。

それと、もうひとつ。
アメシストには「グリーン・アメシスト」、別名「プラシオライト」と呼ばれる石もあります。

現在流通しているプラシオライトのほとんどは、アメシストまたは黄色がかった石英(水晶みたいなもの)に熱処理+照射処理(コバルト60かガンマ線)を施したものです。要するに加工品ってことですな。

天然のプラシオライトは産地も限られており、きれいな結晶はなかなか出ません。
ただ、天然のプラシオライトが市場に全く出ないわけではないので、未処理の品がほしい方は、お財布と相談しながら根気よく探してみてくださいね。
この石も紫外線で退色するので取り扱いにはご注意を!

※鉱物学的には、「プラシオライト」は緑色のアメシストではありません。アメシストは紫色以外は認められていないのです。
人工プラシオライトはアメシストを加工することにより作られますが、天然のプラシオライトは「グリーン・クォーツ(緑色の石英)」に分類されるべき石であり、「グリーン・アメシスト」や「ライム・シトリン」という名称で呼ぶべきではないとThe Federal Trade Commission(FTC:連邦取引委員会)さんがお怒りになっていらっしゃいます。
その調子で「モスカルセドニー」を「モスアゲート」呼ばわりすることにも文句をつけてくれないかFTC!君だけが頼りだ!o(><o)(o><)o

(天然のプラシオライト:ブラジル産)

平静さを保ちたい人、ここからは必読!

さて。堅苦しい話はここらへんにして、そろそろアメシストの伝承のお話に移りましょう。

『アメシスト』という名前は、古代ギリシャ語の “αμέθυστος ”(amethystos/アメスィトス)という言葉が由来となっています。“αμέθυστος”とは“μεθύσκω”(methysko/メスィスコ:古代ギリシャ語で「酔わせる」という意味)に否定の接頭辞の“α”(a/ア:古代ギリシャ語で「無い」という意味)がくっついたものです。
つまり『アメシスト』とは「酔わせない」って意味なんですよ。昔の人々がこの石で酒杯を造ったのも「人を酔わせない石」の御利益を願ってのことだったんでしょう。

せっかくですし、酒にまつわるアメシスト誕生の悲話をひとつご紹介いたしましょうか。

昔々、葡萄(ぶどう)とワイン、祝祭と狂気の神であるディオニューソス(バックス)という神様が、取り巻きの方々と酒盛りで盛り上がっていたところへ、運悪く、うら若き乙女であるアメシスト嬢が通りかかってしまいました。
今も昔も、「酔っ払いのおっさん」ほど始末に負えないものはないのですが、ディオニューソス神も例外ではなく、「お、きれいなおねーちゃん発見! こっちで一緒に呑もうじゃないか?」とばかりに、アメシスト嬢を追いかけまわしたのです。

(葡萄とワインの神・ディオニューソス:だいたいいつも酔っ払い)


今も昔も、酔っ払いのおっさんの「何もしないから! 一緒に呑むだけだから!!」ほど信用できないものはないのですが、それをよく理解していたアメシスト嬢は貞操の危機におびえて逃げ出しました(誰でも酔っ払いのおっさん集団に襲われたら、びっくりして逃げ出すと思う!)。

しかし最終的には追い詰められてしまい、進退窮まったアメシスト嬢は、月の女神アルテミス(ディアナ)に自身の貞操を保つことを必死に祈り、その祈りを聞き入れた女神によって白い水晶に姿を変えられてしまいました。

自分のせいで美しい乙女が白い石に変わり果ててしまったのを目の当たりにしたディオニューソス神は、さすがに酔いも覚め、「こんなことしなけりゃよかった…」と後悔するのですが、すでに後の祭りです。
悲嘆にくれる彼は自身の象徴でもある葡萄酒を、元アメシスト嬢、今はただの白い石に注いで紫色の石に変え、「もう二度と酒に酔ってこんな悲劇は起こすまい」と誓いました。これが『アメシスト』が紫色の石となった理由なんだそうですよ。

※ところでこの話って酷くないですか? アメシストちゃんは追いかけまわされるわ、石に変えられるわで、踏んだり蹴ったりですよねぇ。
何やってんの?アルテミス。ご自慢の弓で、ディオニューソスの足を射抜かんかい! 親父(ゼウス神)呼んできて、酔っ払いのおっさんどもに雷落としてもらえ!
なんでギリシャの神々って、事案発生時の対処がこうもまずい奴らばかりなんだろう…。ぷんすか!(-“-)

 そんなわけで、アメシストは「酔いを覚ます」以外にも、「狂気を諫める(いさめる)」・「冷静さを保つ」効用のある石として、長年人々に愛用されてきた石なんです。思考のコントロールが苦手な方や感情が暴走しがちな方には、お役立ちな石だと思います。

そうそう。アメシストと一緒に黄色(金色)に光る石(シトリンとかゴールデンフローライトとか)を持つと、「集中力が高まる」効果もありますよ。ご興味がおありの方は、ぜひお試しくださいませ。

(アメシストとゴールデンフローライトの組み合わせ)


では、『アメシスト』のお話はこれくらいにいたしましょう。
それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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