『ネフライト』は、世間で言われていることが、事実と違うことだらけ…

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

やわらかい石ですが、ナイフの刃のほうが傷みます。

今回はリクエスト頂いた『ネフライト』のお話をいたしましょう。

ネフライト:和名「軟玉(なんぎょく)」、モース硬度は6から6.5。「軟らかい(やわらかい)石」という名前のわりには、硬度自体はそこそこあるんです。
(※参考までに:モース硬度『6』のものをナイフで傷つけようとした場合、ナイフの刃のほうが痛む。ちなみに人間の爪の平均モース硬度は約2.5。硬いことで有名な井村屋さんのアイス『あずきバー』は人間の爪で傷をつけることが出来るので、あずきバーのモース硬度は2.5以下)

なんでネフライトが「やわらかい石」って名前なのかと申しますと、似たような見た目の石である『翡翠(ひすい)』と比較するとモース硬度が低いからです。
ネフライトと翡翠は昔からよく混同されてきた石なんですが、ネフライトの解説をするには翡翠のお話を避けて通るわけにはいかないので、先にそっちを済ませてしまいましょう。

『翡翠』はネフライトとよく似た見た目の石です。ネフライトよりはるかに有名で人気のある鉱物ですね(歴史だけならネフライトのほうが古いけど)。
モース硬度は6から7程度(混じり気の無い翡翠なら7はある)で、ネフライトよりやや硬い石です。

翡翠は緑色の石だと思われがちですが、混じり気のない純粋な翡翠は白色(無色)です。

(どっちも『翡翠』)


白や緑だけでなく、ラベンダー色の翡翠もあるんですよ。

(ラベンダー翡翠:ミャンマー産)


ところで「翡翠といえば中国!」と思っていらっしゃる方も多いことでしょう。ここだけのお話なんですが、実は中国では翡翠は産出しないんです(´・_・`) 
 
「え? 中国の博物館には翡翠製の古代の装飾品とかがたくさん展示されていると思うんだけど…」というお声がここまで聞こえてきそうなんですが、それ、全部ネフライトです。

一例を挙げるなら、中華民国の台北市にある国立故宮博物院(こくりつこきゅうはくぶついん)に収められている翡翠製品は、その9割以上がネフライトですね。翡翠じゃないんですよ。

なんでそんなことになったかと申しますと、中国では翡翠こそ産出しませんでしたが、ネフライトはなんぼでも出たんです。
で、昔は「産出しない」ってことは「(他国から持ち込まれない限り)それ以外を知らない」ってことと同意なので、翡翠っていう石の存在を知らなかった昔の中国の方々は、ネフライトを「玉(ぎょく=宝石ってこと)」と名付け、価値あるものとして装飾品などに加工し、大切に扱ってきたのです。

そんなある日、18世紀に入る頃、ビルマ(現在のミャンマー)で翡翠が発見されました。その翡翠はネフライトよりも硬かったので、それ以降、中国の方々は翡翠を「硬玉(こうぎょく)」、ネフライトを「軟玉(なんぎょく)」とし、その美しい二つの石を愛でるようになりました。

ビルマ産の翡翠が、なぜ中国名産で知られるようになったのか?

ではなぜ「翡翠と言えば中国!」という誤解が生じたかと申しますと、そのビルマ産の翡翠は採掘後中国へ送られ、中国で加工され、中国から海外への流通経路に乗ったので、「翡翠と言えば中国産」という間違ったイメージが出来上がってしまったというわけなんです。

ほら、『ターコイズ(トルコ石)』もトルコ共和国では産出しないのに、オスマントルコを経由してヨーロッパに持ち込まれたせいで「トルコの石」って名前になっちゃったって話をしたことがあったでしょ? あれと同じような感じですね。

まぁ、先ほども申しました通り、中国ではネフライトはなんぼでも出るんです。そして翡翠もネフライトも見た目は非常に似ています。
しかも、現地の売主(中国の人)はどちらの石のことも「玉(ぎょく)」呼ばわりするわけですよ。
化学組成っていう概念がまだ確立していなかった当時の海外バイヤーさん達(+顧客の方々)が、この2つの石を混同しちゃったのも無理はない話だとあたしは思いますね(´・_・`)

(見た目が非常に似通っている『翡翠』と『ネフライト』)


そしてこの「翡翠とネフライトを混同する」という歴史はいまだに続いています。どちらの石のことも「jade(ジェイド:『玉』『宝石』のこと)」と呼ぶ人が多いからです。

それどころか、翡翠でもネフライトでもない『サーペンティン(蛇紋石:じゃもんせき)』や『グリーン・アベンチュリン(砂金石:さきんせき)』という石まで「jade」という名称で流通することがあるのです。

なんでそんなことになっているかって? 理由は簡単、それらの石の見た目が似通っているからですよ(´・_・`)


要するに、緑色で翡翠っぽい石は「jade(ジェイド)」の名前で流通することが多いんです。
「ネフライトジェイド(これはネフライト)」とか「インディアンジェイド(インド翡翠:これはアベンチュリン)」とか「アフガニスタンジェイド(アフガンジェイド:これはサーペンティン)」とか、とにかく緑色の石にはなんでもかんでも『ジェイド』ってつけときゃいいだろうくらいの気安さで、皆さん流通経路に乗せちゃうんです。ホント止めて欲しいわ!(ノ*`´)ノ⌒┻━┻
 
「そんな支離滅裂な市場からどうやって『ネフライト』を探せばいいの!?」というお声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて。方法はありますよ。

偽物が多すぎる中から、本物を選ぶ方法、教えます。

まず、『翡翠』を探しているなら「jade」ではなく「jadeite(ジェダイト)」という名称がつけられているものを選ぶこと。「jadeite」とは翡翠の鉱物名なので、この名称がついているものはまず『翡翠』で間違いないでしょう。

次に『ネフライト』を探しているなら「jade」ではなく「nephrite(ネフライト)」と、きっちり鉱物名が書いてあるものを選ぶこと。
サーペンティンもアベンチュリンもそうです。正しく鉱物名が明記されているかどうかを確認しましょう。

そして最終手段として鑑別書を見ること。
ただしこれは翡翠を探している時にしか使えない手ですね。ネフライトやサーペンティン、アベンチュリンは安価な石なので、普通鑑別書は付きませんから。

翡翠はそれらの石に比べるとはるかに高額で取引されますから(ということは偽物も多いですから)鑑別書の提示を求めても何もおかしくはありませんよ。自衛も大切ということですな!ヾ(´▽`)ノ

ネフライトと腎臓の意外な関係

ふぅ、意外と諸注意が長くなってしまいましたね。
ではそろそろ話を『ネフライト』に戻しましょう。

ネフライトは『角閃石(かくせんせき)』という石の仲間で緑色のものが主流ですが、緑色以外にも白色、黄色、茶色、灰色、黒色と結構様々な色があるんですよ。
純粋なネフライトは白色ですが、ほとんどのネフライトには何か他の石が混じりこんでいるものです。

「緑閃石(りょくせんせき;アクチノライト)」という鉄(Fe)を含んだ石が混じった場合は暗い緑色に、クロム(Cr)が混じれば明るいエメラルドグリーンに、酸化鉄(要するに錆びた鉄)が混じれば黄色から茶色になります。

ま、現在一番人気があるのは濃い緑色ですね(中国では白いネフライトが『白翡翠』と呼ばれ、長い間一番人気でしたが)。

(白いネフライトと黄色いネフライト。このぬめっとした光沢がネフライトの特徴)


では、『ネフライト』という一風変わった名前の由来についてご説明いたしましょう。
医療関係者の方や、薬学に多少知識のある方であれば、「ネフ」とは腎臓に関係する言葉であるとすぐにお気づきになることでしょう。

腎臓(病)学はネフロロジー(Nephrology)、腎臓の中で尿を生成する組織のことは「ネフロン(Nephron)」、尿にたんぱく質が排泄されてしまう病気のことは「ネフローゼ症候群(Nephrosis syndrome)」、というんですが、全部『ネフ』で始まっているでしょう?

犬や猫の腎臓病に対して処方されるサプリ「ネフガード」も「ネフ(腎臓)をガード(守る)」っていう意味でしょうね。小林製薬さんが得意とする安直なネーミングですが、これは共立製薬さんの製品です。

※小林製薬さんって製品名だけで何に使うものなのかすぐわかる。喉に塗るから「のどぬーる」で、便秘薬が「スルーラック」、さかむけやあかぎれの傷を固めて沁みないようにするのが「サカムケア」。名は体を表すにも程があるネーミングセンスだと思いますね!

『ネフライト(Nephrite)』という名前は「lapis nephriticus(ラピス・ネフリティカス)」というラテン語が元となっています。Lapisとは「石」のことで、Nephriticusとは「腎臓」のことです。要するに「腎臓の石」って意味ですな。

なんでそんな名前になったかと申しますと、古代ギリシャ時代からネフライトは「腎臓を癒す石」だと信じられてきたからです。さっきの「lapis nephriticus」っていうラテン語も古代ギリシャ語の「λίθος(石)νεφριτικός(腎臓の)」が元となった言葉なんですよ。

ギリシャだけではなく、スペインやメキシコ、ネイティブアメリカン(アメリカ先住民)の人々も、ネフライトは腰や腎臓、腹部の疾患(“Piedra de Ijada”、直訳すると『(身体の)横の痛み』)に対する治癒の効果があると信じており、そのご利益を期待してこの石を腰に当てたり、ベルトなどの飾りに加工して腰に巻いたりしていました。

デトックス効果に期待! 仲間となる石との合体技も推奨

そんなわけで、現代でも『ネフライト』はデトックス(Detox:体内にの毒素や老廃物を排出させること)に役立つと信じて愛用なさる方がいらっしゃいます。

ただ、紫乃女的にはそういう効果を鉱物に期待するのはオカルトが過ぎると思うんです。食物繊維だっていうならまだしも(食物繊維はダイオキシン類を吸着して排出させる一定の効果が医学的に認められているので)石にそんな役割を担わせるのは少々荷が重いでしょう。

むしろ、『ネフライト』を「精神面のデトックス」に使ってみるというのはどうでしょう?ネフライトにはネガティブな思考を取り除いて心を穏やかにしたり、悪い習慣を止めさせ悪癖から解放するという効果があるらしいので、そちらの方面に多いに役立ててもらいたいと思いますね(´・_・`)b

同じく緑系の石『プレナイト(葡萄石:ぶどうせき)モース硬度:6から6.5』や『アメシスト(紫水晶)モース硬度:6.5から7』『クリソプレーズ(緑玉髄:りょくぎょくずい)モース硬度:6から7』『カイヤナイト(藍晶石:らんしょうせき)モース硬度:4.5から5』なども「悪癖を断ち切る」ことに役立ちますので、それらの石と組み合わせてブレスレットなどをお作りになるのもいいでしょうね。色合いも綺麗な品になると思いますよ!


では『ネフライト』のお話はこの辺にいたしましょう。
それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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