
4月の誕生石『ダイヤモンド』はモース硬度以外もトップクラスだらけの石だった
[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]
ダイヤモンドとラグビーの意外な関係性
今回は4月の誕生石である『ダイヤモンド』のお話をいたしましょう。
ダイヤモンド 和名『金剛石(こんごうせき)』モース硬度はなんと10! この世で最も“傷つきにくい”鉱物です。
「モース硬度」はその物質の単純な硬さの尺度というよりは、その物質の「傷つきやすさ」「傷つきにくさ」の指針です。あくまで、その物質を何かでひっかいた時に傷がつくかどうかの目安であって、叩いた時に壊れるかどうか(=堅牢さ)の目安じゃないんです。
「ダイヤモンドはこの世で最も硬い鉱物だから、ハンマーでぶっ叩いても大丈夫!」と思わないほうがいいですよ、砕けますから。
つまり某ジョジョさんの「ダイヤモンドは砕けない」は大嘘だってことですな!
ヾ(´▽`)ノ ←「ダイヤモンドは傷つかない」なら全面的に賛成した人
ダイヤモンドの化学組成は「C(炭素)」だけです。要するにダイヤモンドは炭の塊ってことですね(´・_・`)
炭の塊のくせになんでこんなに硬いのかって話をしようと思ったら「共有結合(きょうゆうけつごう):原子間で電子対(でんしつい:反対のスピンを持つ2個で1組になっている電子)の共有を伴う化学結合のこと」の話を避けて通るわけにはいかなくなるので、ここではスルーいたしましょう。
超簡単に言っちゃうと、各炭素元素が隣り合う4つの原子を共有した状態で結合しているため、極めて硬い構造を有しているんです。
もっと雑にたとえるなら、全く同じ体格のラクビー選手たちががっちりとスクラムを組んだ状態で、上下左右に延々と繋がっているようなものです。
想像してみて?めっちゃ崩しにくいでしょ?(´・_・`)b

ご興味がおありの方はご自分で調べてみてください。高校で化学を選択なさっていた方ならすぐにご理解頂けますよ。
さて、ではそろそろ話を化学から鉱物学へと戻しましょう。
ダイヤモンドはカラーバリエーションが豊富。最もレアな色は?
『ダイヤモンド』という名前は、古代ギリシャ語の “ἀδάμας”:アダマース(無敵・不屈って意味)が古典ラテン語の “adámas”:アダマス(意味は同じ)という言葉の元となり、それが中世ラテン語で”diamas”:ディアマス(最も硬い鋼って意味)に変化して、さらに古典フランス語で”diamant”:ジィアモ(ダイヤモンドの宝石って意味)になったところへ、中世英語の”adamant”:アダマント(非常に強固な物質って意味)がくっついて今の”diamond”:ダイヤモンドという言葉になりました。
ほら、よくゲームや漫画なんかで「アダマンチウム」とか「アダマンタイト」とか「アダマンティン」いう架空の鉱物の名前が出て来るでしょ? あれらの語源もこれですね。

※以下は言語学に興味がおありの方だけお読み下さい。
『ダイヤモンド』の名前の由来となった古代ギリシャ語 “ἀδάμας”は、接頭辞の”ἀ”(無いって意味)に動詞の”δαμνάω”(ダムナオー:屈服するって意味)がくっついて「不屈」という意味を表す名詞になったという説が現在主流ですが、そうじゃないという意見もあるんです。
オランダの言語学者Robert Stephen Paul Beekes先生は、この言葉は紀元前30世紀頃に西アジアや北アフリカ周辺で使用されたセム語の「とある単語」(象形文字なのでさすがにここには書けませんよ。その単語の意味は「貴重な石」)の借用ではないかという説を唱えていらっしゃいます。
彼はライデン大学のインド・ヨーロッパ言語学名誉教授でいらっしゃるので、ご興味がおありの方は先生の「Etymological Dictionary of Greek (Leiden Indo-European Etymological Dictionary)」という著作をご覧ください。
いやはや、歴史が古い石はその名前の由来だけでひと騒動ですな!
そろそろ話を宝石としての『ダイヤモンド』そのものに戻しましょう。
ダイヤモンドはカラーバリエーションが豊かな石です。
透明・赤色・オレンジ色・黄色・緑色・水色・青色・ピンク色・黒色と様々な色があります。一番人気はやはり無色透明のやつですね。ダイヤといえば透明!というイメージは皆さんもお持ちでしょう。
実は、天然のカラーダイヤモンドは結構珍しいんですよ。最もレアな色はライラック色。まずお目に掛かれない。ライラック色の次にレアなのは赤色。カラットあたりの取引額が一番高額。
なんで珍しいかと申しますとね、さっきもご説明しましたとおり、ダイヤモンドを構成する炭素原子さんたちは、お互いがっちりとスクラムを組んでいるので、余計な不純物が入り込みにくいんです。

それでもまぁたまには間に入り込む勇猛果敢な不純物さんもいらっしゃいます。
ダイヤモンドにホウ素が入りこむと青色に、窒素が入り込むと黄色に、放射線に被爆すると緑色になります。スクラムを組んでいる炭素原子メンバーさんの中に脱落者が出ると茶色のダイヤモンドになったりしますね。


ま、皆さんもよくご存知の通り、『ダイヤモンド』というのはお高い石ですよ。なんでこんなにお高いのかという理由を詳しくお話することもできるんですけれど、その解説には最低でも2万文字ほど必要だと思うんですよね。実にこのコラム4回分以上です。
そこまでしてダイヤモンドの価格が高額である理由を知りたいとおっしゃる読者の方もいらっしゃらないと思いますので、ここでは1970年代のイスラエルと『デ・ビアス社(The De Beers Diamond Consortium)』に対して「世の中にはな、やっていいことと悪いことがあるんだぞ!」と怒りを向けつつ、他の話題に移ることにいたしましょう。
模造品登場はだいぶ後に。宝飾品以外でも大活躍
さっきも申し上げましたとおり、ダイヤモンドはお高い石です。そしてこのコラム常連の方ならすでにお気づきかと思いますが、お高い石というものは模造品が流通しまくるという宿命を背負っているものなのです。

ただ、ダイヤモンドの模造品が流通するようになったのは20世紀後半からです。それ以前の時代からダイヤモンドは人気の高い石ではありましたが、ダイヤモンドの3大特徴と言っても良い「高い透明度」「高い屈折率」そして鉱物最高峰を誇る「モース硬度10」を人の手で再現するには、20世紀後半になるのを待たねばならなかったのです。
合成(人工)ダイヤモンドの用途は何も宝飾品に限ったことではありません。モース硬度が高いってことはすなわち「摩擦に強い」ってことなので、研磨剤や金属加工用の工具、医療用のナイフなどにも使用されているのです。
合成ダイヤモンドで作られる「究極の半導体」はそれ以外の素材のものに比べ、絶縁耐圧や熱伝導率といった物理的な特性に優れているので、実用化に向けて今盛んに研究されているところなんですよ!
これが出来上がれば人工衛星の軽量化が一段と進むことでしょう。いやぁ楽しみですなぁ!ヾ(´▽`)ノ←人工衛星オタク
まぁ人工衛星はおいといて、合成ダイヤモンドの話を続けましょう。
合成ダイヤモンドは別名「Lab Grown Diamond:ラボグロウンダイヤモンド」と言います。人の手で作りますのでカラーもお望みのままです。安価(天然に比べると…ですけどね)なカラーダイヤモンドはほぼ100%合成品でしょうね。
合成ダイヤモンドを示す他の用語としましては、「synthetic(合成)」、「man-made(人工)」、「laboratory-grown(ラボで製造された)」、「laboratory-created(ラボで製造された)」などがあります。また、ダイヤモンドの鑑定書の「Treatment(トリートメント:人工的に施される処置のこと)」のところに「HPHT」って書いてあった場合は、その石は天然のダイヤモンドが形成されるのと同じ高圧高温な環境で作られた合成ダイヤモンドであるということを意味します。
※HPHT=High-Pressure(高圧)&High-Temperature(高温)
このHPHT(高圧高温法)を、合成ダイヤモンドを作るためではなく、天然のダイヤモンドの色を変えるために使用することもあります。茶色がかった天然ダイヤモンドを無色透明にするとかね。
いったん色を消してしまえば、そのまま「無色透明の天然ダイヤモンド」として高額で売りさばくこともできますし、「アニーリング(※後述します)」という処置をさらに施すことによって、様々なカラーダイヤモンドを作り出すこともできるのです。

ついでですので、ダイヤモンドの施される人工処置の話をもう少し続けましょう。
「Annealing:アニーリング(焼鈍:やきなまし)」とは、ダイヤモンドを適度な温度に加熱した後ゆっくりと冷却することで、その色をオレンジ・黄色・ピンク・赤色・紫色・無色などに変化させる処置のことです。
アニーリング以外にも「Treatment(人工処置)」の項目に「Irradiated(イラディエイテッド)」と書いてあったら、それは放射線を照射して色を変えたダイヤモンドだってことです。青色や緑色のダイヤモンドは照射処理が施されている確率が非常に高いですよ。

で。上記の処置ならまだいいんです。それらの処置で得た色は(現代では)永続的ですから。
もっと酷いのになりますと、無色に近いダイヤモンドに「シリカ(ケイ素)コーティング」っていうのを施して、様々な色合いの美しいカラーダイヤモンドを安価に作り出しちゃう人達もいるんです。
たとえば、黄味がかった天然ダイヤモンドの上に薄紫色のシリカの皮膜をコーティング(ちゃんと言うなら真空蒸着)すれば白っぽいダイヤモンドの出来上がりです。コーティング剤に金と銀を加えればピンク色や青色のダイヤモンドに、鉄を加えればオレンジ色のダイヤモンドが出来上がります。自由自在です。
そりゃ現代の技術ですからそう簡単には剥(は)げませんけれど、そのダイヤモンドを修理や研磨に出した場合、熱や化学物質でコーティングが損傷する可能性があるんですよ。傷だってつきやすいです。
だってシリカのモース硬度はダイヤモンドよりはるかに低いんですからね!
「じゃあ、カラーダイヤモンドではなく、初めから無色透明の天然ダイヤモンドだったらまだ安心ってことね!」というお声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて。んなわけないでしょ?
天然の透明なダイヤモンドに余計な内包物(インクルージョン)が含まれていた場合、レーザーでその部位に小さな穴を開け、その内包物を除去(気化)したり、漂白剤や酸でより目立たない色にしたりすることがあります。
その後、穴に鉛ガラスを充填し塞いでしまえば「内包物の無い(目立たない)綺麗な透明ダイヤモンド」の出来上がりというわけです。
ダイヤモンドにひび割れ(クラッキング)などがあった場合も、同じように鉛ガラス充填処理が施されます。

一見、何も問題が無いように思われるこの処理ですが、こういうダイヤモンドを超音波洗浄機にかけると、ダイヤモンドよりはるかに脆(もろ)い「詰め物」の部分が損傷してしまうことがあります。
そして一度「詰め物」が損なわれてしまうと、もう一度元に戻すことは出来ません。安価な天然ダイヤモンドを超音波洗浄機に繰り返しかけることはお勧め出来ませんね。
つまりはまぁ、話をまとめますと、
「安価なダイヤモンドは飛びつくな。飛びつくならその前に鑑定書を確認しよう」ということになりますね。鑑定書に『充填』とか『含侵処理』とか『ダイヤモンド+鉛ガラス』と書かれていた場合は上記の処理が施されているということです。
まともな店で買ったダイヤモンドに付いている鑑定書にはその石に対して施された処置が全て明記されているはずですので、自分の目に自信が無いうちは鑑定書を確認することを忘れないようになさって下さい。自衛って大事よ(´・_・`)b
ダイヤモンド以上に虹色に輝く石、存在します。
おっと、長々と気が重くなるような人工処理の話ばかりしてしまいましたね。
ちょっとここらへんで「ダイヤモンドと似て非なる石」の話でもいたしましょう。
無色透明のダイヤモンドに似た石として有名なのが、『ホワイトトパーズ』『ホワイトサファイア』『ジルコン(これは天然石)』『キュービック・ジルコニア(これは合成石)』『モアサナイト(Moissanite:流通している物は全て合成石)』などがあります。
どの石も本物のダイヤモンドの代用品に過ぎないと思われがちですが、『モアサナイト(モアッサナイト)』はダイヤモンドよりも虹色に輝く美しい石なんですよ!
モース硬度もダイヤモンドの「10」には至らないものの、「9.25から9.5」というルビーやサファイア以上の数値を誇ります。
日本ではまだそこまでメジャーな合成石ではありませんが、この機会にぜひ皆さんにもその輝きをご覧下さい。

モアサナイト唯一の弱点は、「虹色に輝きすぎること」です。その石が大粒になればなるほど虹色に輝きすぎて「ダイヤモンドではない」ことがすぐにバレてしまうからです。

でもね、モアサナイトは元々は隕石なんですよ。1893年にアリゾナ州のキャニオン・ディアブロ隕石のクレーターを調べていたアンリ・モアッサン(Henri Moissan)氏によって発見されたことにより『モアサナイト(モアッサナイト)』と呼ばれるようになったこの石は、そのモース硬度の高さからダイヤモンドの代わりとして研磨剤や切削材用に合成されるようになり、その後宝石品質のものが流通するようになったのです。
つまり、モアサナイトとは「隕石を再現した石」です。この石をただの「ダイヤモンドの代用品」と考えるのではなく、太陽系外からやってきた隕石を人の手で再現した合成石だと考えれば、虹色に輝きすぎる弱点も愛らしく思えてはきませんか?ヾ(´▽`)ノ

…おっと、ずいぶんと話し込んでしまいましたね。ダイヤモンドはお話することが多すぎて困りますよ。オカルト好きな方には『呪いのホープダイヤ』の話などはウケが良いネタだと思うのですが、いかんせん1回の記事における文字数の限界を超えてしまいましたからねぇ。
では、『ダイヤモンド』は前後編の2回に分けることにいたしましょうか。後編をお楽しみに!ヾ(´▽`)ノ
それではまた!

1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら
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