余計な思い込みを数多く背負わされた『ダイヤ』は、重圧に耐えて磨かれてきた…

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

600g以上ある超ヘビー級のダイヤモンド

ダイヤモンドの化学組成やモース硬度、施されるエンハンスメント(人工的な処置)や類似石に関しましては【前編】でざっとご説明したと思いますので、今回の【後編】ではもう少し気楽な『ダイヤモンドにまつわるお話』でもいたしましょう。

ダイヤモンドは古くから宝飾品として(もっぱらお金持ちの方々に)愛されて大切にされてきた歴史ある石ですので、現在でも所有者と保管場所が判明している大粒の石はたくさんございます(所在不明になっている石もかなりありますけどね)。

ただ、そういう『有名なダイヤモンド』をカラット数の大きい順にご紹介してゆくと、その話だけでこの後編が終わってしまいます(有名どころだけでも110個以上あるので)。それに、そういう話は別にあたしの連載じゃなくても結構あちこちで解説されていると思うんですよ。というわけで、ここでは有名どころの中でも超有名な石だけをいくつかご紹介して終わりにしたいと思います。

さぁではいきますよ。皆さん駆け足のご準備を!

まずは世界最大のカラット数を誇る『カリナンダイヤモンド』。総カラット数:3106.75カラット(約600g)!
1905年に南アフリカで発見された石です。あまりに大きいので48個にカットされたカリナンダイヤモンドは、そのすべてを英国王室が所有しています。

(上段中央が『カリナンⅠ』:530.4カラット)


はい次!
世界最大のピンクダイヤモンド『ダリヤ・イ・ヌール』。182カラット。
12世紀ごろインドで発見された後、紆余曲折あって、現在はテヘラン(イラン・イスラム共和国の首都)のイラン中央銀行で保管されています。

(古い歴史を誇るピンクダイヤモンド:ダリヤ・イ・ヌール)


ちなみにイエローダイヤモンドで一番デカイのは、『ソビエト連邦共産党第26回大会(XXVI съезд КПСС)』っていう、妙な名前のダイヤモンド(342.57カラット)なんですが、個人的にそこまで綺麗なダイヤモンドだとは思わないので(デカイだけだよあれ。ちゃんとカットして研磨しろってんだ!)ここではスルーいたします。

はい次!
ブルーダイヤモンド『ジョセフィーヌの青い月』。12.03カラット。サザビーズ(美術品や宝飾品を扱う世界最大のブローカー)オークションにて香港の大富豪さんに落札されました。
落札後、彼はそのダイヤモンドに愛娘ジョセフィンさんにちなんだ名前を付けたんですよ。ロマンチックだよね!『ソビエト連邦なんちゃらかんちゃら』なんてダサい名前をダイヤモンドにつける奴は、この大富豪さんの爪の垢でももらえばいいんだ!

(ジョセフィーヌの青い月:このダイヤモンドは紫外線を当てると赤い燐光を発するんだよ!By The Jewellery Editor – http://www.thejewelleryeditor.com/jewellery/article/the-record-breaking-diamonds-of-2015/, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=69081628


※『ジョセフィーヌの青い月』よりも大きなブルーダイヤモンドはいくつかありますが、このダイヤモンドはGIA(Gemological Institute of America:世界的な宝石学教育機関&鑑別・鑑定機関)によって「ファンシービビッドブルー(ブルーダイヤモンドにおける最高のカラーグレーディング)」と格付けされていることで有名なんです。要するにまぁブルーダイヤモンドの最高傑作ってことですな!

はい次!
グリーンダイヤモンド『ドレスデングリーンダイヤモンド』41カラット。インド産。現在はニューヨーク市にあるメトロポリタン美術館が保管中です。メトロポリタンでの展示が終わったらワシントンDCにあるスミソニアン博物館に戻されるんじゃないでしょうか。 

(天然の放射線によるアップルグリーンの発色:ドレスデングリーンダイヤモンド)


はい次!
超レア! 天然のレッドダイヤモンド『デ・ヤング・レッドダイヤモンド』5.03カラット。
前編でも申し上げましたとおり、ダイヤモンドで赤色は本当に珍しいんです。この石も最初はガーネットと間違えられたくらいなんですよ(こんなに赤いダイヤモンドがあるわけないって最初はみんな思うから)。現在スミソニアン博物館が保管中です。

(ガーネットと間違われるほど赤い『デ・ヤング・レッドダイヤモンド』By MBisanz – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4458342

『ホープダイヤモンド』という名前だけど、心外なことに希望もなく呪われたものな扱いをされてきた

さぁではそろそろ真打登場と参りましょうか。
皆さんお待ちかね『ホープダイヤモンド』45.52カラット。
Wikipediaにさえ “supposedly cursed”(多分呪われている)と評される気の毒なダークブルーグレーのダイヤモンドです。現在はスミソニアン博物館が保管中ですね。

(「呪われたダイヤモンド」の異名を持つホープダイヤモンド)


なぜこの美しいブルーグレーダイヤモンドが『呪われたダイヤモンド』と言われるようになったのか、その経緯をざっとご説明いたしましょう。

まず、このダイヤモンドは大昔にインドでヒンドゥー教の女神シーターの彫像の目として飾られていたそうなんですが、そのうちの1つ(片目)を盗み出した罰当たりな奴がいたんですって。
それを知ったヒンドゥー教の僧侶が、その石を今後入手するであろう全ての持ち主に呪いをかけたんだそうです。
そんな裏事情を知らないフランス人のタヴァルニエ氏が、1660年(1661年の説もあり)にこの石を購入しました。彼は購入した直後に「熱病で死んだ」または「狼に食べられて死んだ」そうです。

次に、1668年にフランス国王ルイ14世がこの石を購入しました。彼はこの石を「フランスの青(The French Blue)」と名付けました。
ちなみにルイ14世の家庭は不幸続きで、彼の嫡子(ちゃくし:家の跡つぎをする(はずの、男性である)子)のほとんどが幼少期に亡くなり、唯一成年にまで達した王太子も3人の子を残して若くして死亡。
その3人の子供のうち長男と次男も幼くして死亡。唯一生き残った三男が後を継ぐことになります。

「フランスの青」はそのままルイ15世の所有となります。彼は5歳で即位し、64歳で天然痘で亡くなります。

そして1792年にフランス革命のどさくさに紛れて、6名の窃盗団が王室の宝物庫から「フランスの青」を強奪しました。当時の所有者であったルイ16世とマリー・アントワネット王妃はギロチン台の露と消えます。

盗品であることを隠すため、「フランスの青」は2つにカットされ、フランス国外へと持ち出されます。で、その2つにカットされたダイヤモンドのうち、大きい方の石は1812年にイギリス・ロンドンの宝石商であるダニエル・エリアーソン氏の所有となります。彼はこの石を手に入れた直後に「落馬して死亡した」そうです。

そして1830年から1839年の間(何年なのかははっきりしない)にこの石は、宝石コレクターであるオランダ人のヘンリー・フィリップ・ホープ氏の所有物となり、ここで初めて『ホープダイヤモンド』として世に知られるようになりました。

その後も『ホープダイヤモンド』は所有者を転々としてゆくわけなのですが、全部追っていたらキリが無いので、ちょっとここまでの経緯を振り返ってみましょう。

まず、この石がシーター女神の彫像の目であった記録は残っていません。多分嘘でしょう。なぜなら女神像の片目を盗み出すような罰当たりな盗賊が、もう片方の目にはまっているダイヤモンドをそのままにしておくわけがないからです。

しかし盗まれたのは「女神像の片目」だけらしいじゃないですか。実に疑わしい話です。ということはすなわち、この時点で僧侶の呪いも虚実である可能性が非常に高くなってきます。

その次の所有者として「その石を拾った農民」だの「その農民から強奪したペルシャ軍の司令官」だの色々と登場人物候補が出てきますが、彼らの実在を保証する資料が全く現存していません。
実在したかどうかも分からない人物に対する呪いの話をしてもラチがあきませんので、「悲惨な死を遂げた」と言われている彼らのことは省きます。

1660年(または1661年)にタヴェルニエ氏がその石を購入したことは、現存する史実に基づく事実です。

しかし彼は入手直後に熱病で死んだわけでも狼に食べられて死んだわけでもありません。彼は老衰で84歳で亡くなりました。当時なら大往生ですよこれ。

次にフランス王ルイ14世ですが、彼が亡くなったのは彼の77歳のお誕生日の4日前です。そりゃご家族には不幸が相次ぎましたが、天然痘に対する治療法が皆無の時代では仕方が無いことだと思うんです
それにダイヤモンドに掛けられた呪いは「所有者に対して発動する」ものなんでしょう?お子さんたちが亡くなられたのは無関係なのでは?

1代飛ばしてルイ16世ですが、確かに彼はギロチン行きにはなりましたよ。でもじゃあ、フランス革命ってあのダイヤモンドのせいなんですか? なんかおかしくないです?

※豆知識:実は王妃マリー・アントワネットは、このホープダイヤモンドを着用したことが無い。でも彼女の死もこのダイヤモンドの呪いのせいだと言われている。

次に1792年9月11日に6名の窃盗団がこの石を盗んだのは本当ですが、その後この窃盗団が自殺しただの殺されただのという記録は残っていません。つまりそういう話は後付けの与太話である可能性が非常に高いです。

その後、このダイヤモンドを購入したロンドンの宝石商エリアーソン氏が入手直後に落馬して死亡したというのは、事実と異なります。
彼がこの石を入手したのは1812年の9月、彼が亡くなったのは1824年の11月17日です。死因は落馬事故のせいではありません。

ざっと見ただけでこの『呪い』、これだけの嘘が盛り込まれているんです。つまりこの話は『恐怖!ツタンカーメン王の呪い』と同レベルの「でっち上げ」だということになります。それが未だに語り継がれているんですよ。馬鹿馬鹿しいでしょう?

(呪いの濡れ衣を着せられた気の毒なホープダイヤモンド:By 350z33 – Transferred from en.wikipedia to Commons., CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11374464


まぁそんなわけですので、ブルーカラーのダイヤモンドに惹かれているのに「ブルーのダイヤモンドは縁起が悪いから…」と悩んでいらっしゃる方がいらしたらどうか安心なさってください。その石があなたに不幸をもたらすことなんかありませんよ!ヾ(´▽`)ノ

※呪詛(じゅそ:呪うこと)屋な紫乃女からの豆知識:そもそも、モース硬度10の鉱物は経験上、呪詛に不向きです。
7でも厳しいのに。一番適しているのは5から6の間ですね。それ以上上がると使いづらいだけです。ですので、ダイヤモンドが何百年もの間所有者への呪いを宿し続けることなんかあり得ないと思いますよ。

伝承の中では、武器としても重宝された

おっといけない…、話が物騒になりかけていますね。
大急ぎで話題を方向転換いたしましょう!ヾ(´▽`)ノ

ダイヤモンドは歴史の古い石なので、ダイヤモンドにまつわる伝承はたくさんございます。
一説によると、エーロース(キューピット)の弓矢の鏃(やじり:矢の先のとがった部分)はダイヤモンド製なんだそうですよ。そりゃ冥府の王をも貫こうというものですね!(※冥府の王ハーデースは、エーロースの矢の被害者。詳しくは【ガーネット:中編】をご参照下さい。)

エーロース以外にも、ギリシャ神話ではダイヤモンドが度々登場します。
ギリシャ神話の世界の『始まりの神』はガイヤ(地母神:大地の女神・混沌より生まれし者)なのですが、このガイヤの息子ウーラノス(天空神:男性)とガイヤとの間に生まれた息子クロノス(農耕神)が、暴虐(ぼうぎゃく)なる父を討たんとする際に、母ガイヤが手渡した『石の鎌』の刃はダイヤモンド製です。

また、人間に火を与えた罪で罰せられたプロメテウス(巨人族:火の神)はカウカーソス(コーカサス)山の山頂に鎖で磔(はりつけ)にされるのですが、その鎖はダイヤモンド製です(ダイヤモンドは高温に弱いので、火の神ならすぐにほどけそうなものですが…)。

時代が下って、最高神ゼウスとダナエ(アルゴス国王アクリシオスの娘:人間)の間に生まれた英雄ペルセウスが、メデューサ(髪の毛が蛇の怪物:彼女と視線が合うと石に変えられてしまう)の首を落とすのに使った剣もダイヤモンド製です。

このようにダイヤモンドの「至高の硬さ」は、大昔から人々に認識されていたようです。

ダイヤモンドが教えてくれる現代社会の悪しき習慣

まぁ、まだまだ神話ネタはあるのですが、あまりそればかりご紹介していますと、いつまで経ってもこの記事の終わりが見えてきませんので、最後にダイヤモンドにまつわる格言のうち、あたしが好きなやつを2つほどご紹介することにいたしましょう。

【前編】でも申し上げましたとおり、ダイヤモンドっていうのは元々はただの「炭」です。
ただの炭が地球内部の凄まじい高圧高温により、限界まで押し固められたものが『ダイヤモンド』です。

少々語弊がありますが、ダイヤモンドは最初からモース硬度10の物質として生まれたわけではないんです。
ただの炭が何億年もの間地球の高圧に晒され、その後一気に地表付近にまで押し上げられたことによって、鉱物最高峰を誇るモース硬度10を手に入れたのです。

人も同じだと思います。
傷つくことを恐れて逃げ回っているだけでは、「強さ」など永遠に手に入らないでしょう。

最近、己に対する負荷(プレッシャー:圧力)から逃れるために、「自由な生き方」「あなたらしいライフスタイル」という聞こえの良い『逃げ道』をちらつかせるヒーラーもどきさんやカウンセラーもどきさんを散見するのですが、彼らの『声』はあたしにはセイレーンの歌声のように思えてなりません。

彼らがよく口にする「ナンバーワンよりオンリーワン」とかまさにそれですね。ナンバーワンはほっといてもオンリーワンだっていうのに、耳当たりが良い言葉であなたを煙に巻き、「至高の硬さ」へと至る道からあなたを遠ざけようとしているかのように思えるのです。

“No pressure, no diamonds. Pressure is a part of success.”(プレッシャーなくしてダイヤモンドなし。プレッシャーは成功の一部だ)というエリック・トーマス博士の言葉は、あたしの経験上『真実』です。
たとえそれが今のあなたにとって厳しい言葉であったとしても、「誰も責任を取ってくれない煙」に巻かれてしまうより、ずっと長い間あなたを支えるものになるだろうとあたしは思います。

そしてたとえプレッシャーに耐え、ただの炭が見事ダイヤモンドに変化したとしても、研磨されなければ光らないのが宝石です。
しかし「磨く」とは「己を削る」ということと同義です。己を削ることによってのみ、あの虹色の輝きは得られるのです。どうかそれを忘れないでください。

己を削る痛みよりも、それによって得られる輝きのほうが大切だと豪語する方々には、バフェット氏の言葉を贈りましょう。あたしの大好きな言葉です。


『ダイヤモンド』を愛する方々は、その硬度がその輝きが、どうやってその石に宿ったのかを今一度思い返してみてください。あなたの「自分を肯定する力」がモース硬度10になった時、『あなたのダイヤモンド』はより一層虹色に輝くことでしょう!

…おっと、なんだか説教臭くなってしまいましたね、失敬失敬。
では『ダイヤモンド』のお話はこれくらいにいたしましょう。

それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

【紫乃女さんの最近ハマっているものをご紹介します!】

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