コスパ良好ながら、けん引役を担う頼もしすぎる石『アイオライト』

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

ザ・紫

今回はリクエスト頂いておりました『アイオライト』のお話をいたしましょう。

アイオライト(iolite):和名「菫青石(きんせいせき)」、モース硬度は大体7前後。意外と硬度のある石です。

『アイオライト』というのは宝石名で、鉱物としての名前は『コーディエライト(cordierite)』になります。日本でこの石を探す場合は「アイオライト」という名前が分かっていれば十分ですが、海外では「コーディエライト(cordierite)」の表記であることも多いので両方覚えておいて下さいね。

『アイオライト』とはギリシャ語の「ἴον(紫色って意味)+ λίθος(石って意味)」という言葉が語源になっています。この「ἴον」がラテン語の「viola(ヴィオラ:紫色って意味)」の語源となり、その「viola」が英語の「violet(ヴァイオレット:紫色って意味)」の語源となりました。

そういえば日本語名の「菫青石(きんせいせき)」の「菫」も「スミレ」って意味ですね。つくづく「紫色」に縁のある石です。
ちなみに、『コーディエライト』という鉱物名のほうはPierre Louis Antoine Cordier(ピエール・ルイ・アントワヌ・コルディエ)さんというフランスの鉱物学者さんのお名前が由来となっています。こっちは紫色全然関係ないんだよね(´・_・`)

とはいいつつ、見る角度によりさまざまな色に変わる

実はアイオライトにはもう一つ『ダイクロアイト(dichroite)』という別名もございます。ギリシャ語で「2色の石(”two-colored rock”)」という意味なんですが、これはアイオライトの持つ『多色性(たしょくせい)』という特性が由来となっています。

多色性とは、様々な角度からその結晶を観察した時に、その結晶が観察する位置によって異なる色に見える光学現象のことなんですが、アイオライトは見る角度によって淡い水色から紺色、そして灰色がかった黄色に見えることがあるんです。

(透明に近い水色から青色、そして黄色の光を放つアイオライト)


この「一つの石の中に二つ(以上)の色が同居している」特性こそがアイオライトの最大の魅力と言えるでしょう。

アイオライトの有名産地はスリランカ・インド・ミャンマー・タンザニアなどです。カナダでもオーストラリアでも出ますよ。最近はブラジル産のものをよく見ますね。

(アイオライトの原石)


原石状態だといまいちパッとしませんが、カットして研磨すると見違えるほど美しい輝きを宿す石です。

(タンザニア産)
(マダガスカル産)
(ブラジル産)


産地によって石の透明度や濃淡に違いがあるのがお分かり頂けるでしょうか。スリランカ産のものは淡い色合いのものが多く、ブラジル産のものは多色性がよりはっきりと出ていることが多いですね。いずれにせよ透明度が高く余計なインクルージョン(不純物)が少ないものほどお高くなります。青色の濃さは価格にあまり影響を与えません。

(淡い色合いのアイオライトと濃い色合いのアイオライト。色が濃いほうがお値段がやや高くなる傾向はあるけれど、石の価格に一番影響を与えるのはその透明度のほう。この2つの石の場合、お値段はほとんど変わらない。)

人工処理はあまり心配しなくていい

あたしの連載を愛読して下さっている方なら「この青色はとても美しいけれど、どうせまた加熱処理で青くしているとか言い出すんじゃないか?」と身構えていらっしゃることでしょう。

実はアイオライトは加熱処理代表選手ともいえるサファイアなどより構造的に弱いので、高温(低温でも)による加熱処理に耐えられないのです。
それにアイオライトはビーズに加工されることもある『半貴石』扱い(宝石のような貴石扱いではない)ですので、そこまでコストを掛けて色の改善を試みるセラーさんもあまりいらっしゃいません。

ま、たまに照射処理モノは見かけますが、基本的にアイオライトに対してエンハンスメント(人工処理)の心配をする必要はないでしょう。

ただ、エンハンスメントで色を変えたわけではないのに、ちょっと変わった色をしたアイオライトもあるにはあります。
「ブラッドショットアイオライト」と呼ばれる石なんですが、ヘマタイト(赤鉄鉱)とゲーサイト(針鉄鉱)がアイオライトの中に入り込んでしまったせいで、独特の赤みがかった光沢を放つんです。

(まるで星雲を閉じ込めたような輝きのブラッドショットアイオライト。超綺麗!)


ブラッドショットアイオライトは別名「アイオライト・サンストーン」と呼ばれることもあるんですが、その名の通り「アイオライト」と「サンストーン」が合体したような石ですね。
両方の石の美しさを併せ持つレアな「ブラッドショットアイオライト」は現在のところスリランカでしか産出されていません。『サンストーン』はこの連載でも扱ったことがございますので、よろしければそちらも御覧下さい。

※サンストーンの記事
「正式名称じゃないの?とイラッとしないで! ストレス解消にぴったりなんだから」

聞きなれた名前にするために、決まりを守らない人たちがいる

この「ブラッドショットアイオライト」とは別の石で、「レッドアイオライト」という名前でたまに流通している赤い石がございます。
あれは正しくは「レッドコーディエライト」です。2015年にマダガスカルのイアコラ(Iakora)地区で産出が確認された珍しい石ですね。
アイオライトと同じように多色性を持ってはいますが、あれを「アイオライト」と呼ぶのはいかがなものかと思います。

コーディエライトという鉱物の中で、青から青紫色の発色を示す宝石級の石のことを「アイオライト」という名称で呼ぶという決まりがあります(Iolite is the name for gem-grade, violet-blue cordierite.)。

以上、青色を全く示さないあの赤い石に「アイオライト」の名前を冠するのは『違法』というものでしょう。だってこの記事の最初でも申し上げましたとおり、『アイオライト』という名前は「紫色の石」って意味なんだもの!

「ピンク・アマゾナイト(正しくは「ピンク・マイクロクリン」)」の時もそうでしたが、「コーディエライト」なんて聞き慣れない名前よりも知名度の高い「アイオライト」の名前を使ったほうがそりゃあ売りやすいでしょう。
しかも「青いはずのアイオライトの変種」ともなれば高額で売りさばくことも可能です。

でもね、世の中にはやっていいことと悪いことがあるんですよ。なんでもかんでも売れそうな名前を勝手につけて流通させないで下さい。そういうのはあたしを通してからにして頂きたいですな (´・_・`)

コンパスの役目を担っていた実用性の高すぎる石

さて、このコラムの恒例行事になってきている「現在の市場に対する文句」も無事済んだところで、そろそろアイオライトの歴史についてお話いたしましょう。

アイオライトは世界最古の『偏光フィルター』として、バイキング(※後述します)に利用されていたという逸話がございます。

偏光フィルターの仕組みについてここで詳しくご説明していると、文字数の限界を迎えそうなので超簡単に申し上げますと、太陽光っていうのは通常はあらゆる方向に拡散するものなんですが、偏光フィルターを通すと一方向に光が集約されるんです(ちょっと語弊あるけど)。

この性質を利用して、北欧特有のどんよりとした曇り空の下でもアイオライトの薄いスライス片を偏光フィルターとして使用することにより、太陽の光がどちらの方角から射しているのかを知ることができたんですって。

彼らは自分達の船の位置をアイオライトを通して見た太陽の方向から結構正確に割り出していたそうですよ。つまりアイオライトは方位磁石も無い時代の船乗りにとって「ナビゲーションシステム」代わりだったというわけです。

※バイキング:8世紀末から11世紀後半にかけてヨーロッパ各地の海で暴れまわった北ゲルマン人のこと。英語で「viking」の綴りなので慣習的に「バイキング」と日本でも呼ばれるが、正しくは「ビーキング」。
彼らが信仰していた宗教が、オーディン神やトール神、ロキ(神?)で有名な『北欧神話』。ちなみにMarvel映画『Avengers』でソー(トールの英語読み)やロキが出て来るけれど、ソーはともかくロキはオーディンの息子じゃないよ。彼は巨人族出身だけどオーディンと義兄弟の杯を交わした仲なんだ。

そしてもうひとつ、アイオライトは普通の「偏光フィルター」には無い特性がありました。『多色性』です。
アイオライトをある角度から見るとまるでサファイアのように濃い青紫色に見えるのに、別の角度から見ると無色に近い透明になり、また別の角度から見ると黄色がかった色に変わります。
この特性を利用して、アイオライトに日光が入る方向がずれないよう(ずれれば色が変わるのですぐわかる)船の進路を固定することができたんだそうですよ。

(多色性を示すアイオライト。上の部分はほとんど透明に見えるでしょ?)

すぐキレる人、注目!

この逸話が元になっているのか、アイオライトの石言葉としましては、「道を示す」「導く」というものがございます。あとは「菫青石(きんせいせき)」の「菫(スミレ)」の花言葉と同じ「誠実」とか「貞操」などですね。

まぁスミレはこの際おいといても、先の見えぬ現代を生きる人にとって、「道を示す」とか「導く」という言葉を持つアイオライトはなかなかに魅力的な石だと言えるでしょう。なんたってこの石の別名は「バイキングコンパスストーン」ですからね!ヾ(´▽`)ノ

こんなに綺麗な石なのに15カラット強のタンザニア産最高グレードのアイオライトでも日本円で20万円以下というコストパフォーマンスの良さも魅力のひとつです。
同じようなグレードのものをサファイアやタンザナイトで探したらえらい金額になりますよ!(しかもどちらも加熱処理されているでしょうしね。)

(タンザナイトに負けぬ青さを誇るくせに、意外とお求めやすいお値段のアイオライト)


アイオライトのビーズも普通に安価で流通していますので、この石に惹かれた方はまずはビーズをお試しになられてはいかがでしょう?

アイオライト単体でもいいですが、スモーキークォーツ(煙水晶)やガーネットなどと組み合わせると「忍耐力を養う」という効果もございますから、堪忍袋の緒が切れやすい方にはお勧めですよ(´・_・`)b←堪忍袋の緒が簡単に切れる選手権日本代表


では『アイオライト』のお話はこれくらいにいたしましょう。
それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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  1. よしだ

    アイオライトをリクエストしたものです。
    ありがとうございます!!

    「道を示す」効果があるのですね。
    大事にしたいと思います。

    今後も紫乃女さんの記事楽しみにしております。