隕石の賜物『テクタイト』。中には「神」と「フンコロガシ」と同格になっているものも

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

『テクタイト』は産地問わず、真っ黒でデコボコしたもの

2023年最初の記事『隕石(メテオライト)』の時に「メテオライトとテクタイトは違うものだ」と申し上げたのを覚えていらっしゃいますか?
今回は、その『テクタイト』のお話をいたしましょう。

再度軽くご説明いたしますね。
メテオライトとは、地球に飛来してきた隕石が、地球の大気圏内で気化せずに(簡単に言うなら「燃え尽きずに」)ある程度の質量を保ったまま、地表に激突しやがった迷惑な石のことを指します。

これに対して「テクタイト」とは、隕石が地表に衝突した際、その衝撃と熱で溶かされて(ちゃんというなら蒸発気化して)上空へと舞い上がった地球の物質が、上空の冷たい空気で急激に冷え固まった(再度固形化した)物のことを指します。

つまり「テクタイト」とは、基本的には地球の物質です。
そりゃ多少は宇宙由来の物が混ざることもあるでしょうけれど、メテオライトのようにその石全てが地球の外からやってきた物質というわけではないんです。

ここまではよろしいでしょうか?

では『テクタイト』の説明をもう少し続けますよ。
一般的に『テクタイト』と一言でまとめられている石の中にも、正しくは『テクタイト』ではなく『インパクタイト(Impactite)』と呼ぶべきものがあるのです。

隕石が地球に衝突した時、その衝撃で地中のマグマが地表に噴出し、それが空中で冷え固まって再度地表に降り注いだものが『テクタイト』。
隕石が衝突した際に、その高温高圧によって地上の岩石が溶けて再度結晶化したものが『インパクタイト』です。

つまりテクタイトとは「隕石によって地表に押し出されたマグマ」で、インパクタイトは「隕石によって圧し潰されて溶けて、再度固まった地表の岩石」なのです。
この2つはほぼ同時期に生成されるとはいえ、それぞれの元になっているものが「マグマ」なのか「隕石が落ちた場所の岩石」なのかという大きな違いがありますので、本来は一つにまとめるべき鉱物ではないと思います。

ま、文字だけだと分かりづらいかもしれませんね。
ちょっと画像を元にご説明いたしましょうか。

はいこれ。ブラジル産のテクタイトね。
はいこれ。オーストラリア産のテクタイトね。
はいこれ。ベトナム産のテクタイトね。


たとえばこの3種のテクタイトを目の前に並べられて、どれがどこの国のものか言い当てろと言われたら正解する自信のある方いらっしゃいます?

「主成分がマグマ」だっていうのはそういうことなんですよ。
あんこの詰まった「あんまん」のあちこちに穴を開けて、それぞれの穴から中のあんこを取り出したところで、どのあんこも同じでしょ?
地球のあちこちに穴を開けて中のマグマを取り出したところで、どれも地球産のマグマであることに変わりはないんですよ。
少々語弊がある言い方ではありますが、理解して頂きやすいと思います。

そんなわけで、テクタイトは産地がどこであろうとも、真っ黒でぼこぼこで愛想の無い鉱物です。たまに隕石の衝突時にマグマと一緒に空中へ放出された岩石の破片が混ざって黒以外(緑色とか茶色とか)になることもありますが、基本真っ黒です。

同じく「マグマを主成分とする真っ黒な石」に『黒曜石(オブシディアン)』がありますが、黒曜石とテクタイトは「含まれる水分量」に大きな違いがございます。

テクタイトは水分や揮発性物質(窒素とか二酸化炭素とかアンモニアとか)をほとんど含まない鉱物なんです。火山が噴火した時に放出されたマグマが冷え固まっただけの黒曜石と、隕石の衝突という凄まじい高温高圧下の環境で生まれるテクタイトとでは、その組成に差があるのも頷(うなづ)ける話だと思います。

偽物のガラス製との見分け方は、そこまで難しくない

ではそろそろ、「インパクタイト」のお話に移りましょうか。
インパクタイトは隕石が落ちた場所の岩石が溶けて再結晶したものですから、落ちた場所によって様々な色合いのものが生まれます。
その中でも有名なのはやっぱり『モルダバイト』と『リビアングラス』でしょう。

モルダバイト(moldavite)とは、約1450~1500万年前に、今のドイツの南部に落ちた隕石の衝撃によって生成された緑色のインパクタイトです。とても美しい石ですよ!

(モルダバイトの原石:テクタイトと同じく水分含有量が非常に低い)
(同じくモルダバイトの原石。化学組成はSiO2(+Al2O3)、ガラスとそう変わらない)
(宝飾用にカット&研磨されたモルダバイト)


ここで残念なお知らせなのですが、モルダバイトは見た目に独特の美しさがあるうえに、隕石の衝突により生まれたという「偶然の産物」なので、流通量が限られています。

賢明な皆さんならもうお気づきかと思いますが、人気があるのに流通量が限られるということは、すなわち取引額が高額になるということ。

そして取引額が高額になるということは偽物が出回るということに繋がるんですよねぇ~。いやんなっちゃうなこの定型文みたなお約束の流れ。吉本新喜劇じゃねぇっつーの!(´_`)

そんなわけで、市場には見た目をわざとぼこぼこに加工した緑色のガラス製「なんちゃってモルダバイト」が溢れています。安価な品は疑ってかかったほうがいいでしょう。

ただまぁ先ほども申しましたとおり、普通のガラスとは水分含有量に大きな違いがあるうえに、内部をよくよく拡大して見ると、本物にはガラスのような均一性が無いんです。もっとこう、しましまで気泡もあってなんだかぼんやりしている(専門用語で「シュリーレン:Schlieren」と言います)感じで、ガラスのような透明感溢れるものではないんですよ。

うまく表現できませんが、濃いシロップをレモネードの中に垂らした時に、そこだけ屈折率が変わってなんだかこう、「もやもや~とした感じ」になるでしょう?あれと似ていますね。

(石の中をよく見て下さい。気泡もありますし「もやもや~とした模様」もあるでしょう? ガラスのような透明感溢れる均一性が無い。これが見分けるひとつのポイントですね(´・_・`)b)


まぁ、慣れてくれば割と簡単に見分けはつくんですが、慣れないうちはあまり安価な品には飛びつかないようにご注意下さい。自衛って大事よ(´・_・`)

ツタンカーメン王に使われたけど、地味がゆえ偽物少なし

さて、ではもうひとつのインパクタイト、『リビアングラス』のお話に移りましょう。

リビアングラス(Libyan desert glass)は北アフリカ、エジプトのナイル川からリビア東部に及ぶ砂漠で見つかるインパクタイトです。約2900万年前の隕石の衝突によって形成されたと言われています。

成分的にはほぼガラス(ちゃんと言うなら純粋な二酸化ケイ素:水分含有量はとても少ない)ですね。

(砂漠の砂が溶けて再度固まったリビアングラス。どことなく砂っぽいよね)


リビアングラスはエジプト西部の砂漠でも見つかるので(この石、サハラ砂漠数十キロに及んで散らばっているんですよ)、古代エジプトの人々はこの石を装飾品に用いていました。有名どころだとツタンカーメン王ね、彼の胸部を飾るスカラベ(※後述します)にはリビアングラスが使われていたんですよ。

(ツタンカーメン王の胸飾り:中央の黄色いスカラベはリビアングラスで作られている)


※スカラベっていうのはコガネムシのことです。「フンコロガシ」って言ったほうが分かりやすいかも。
動物の糞を後ろ脚で転がしながら丸めて運ぶこの甲虫を、古代エジプトの人々は「創造と再生の神であるケプリを象徴する虫だ」と考えていたんですよ。
神様とフンコロガシを同一視するなんて失礼な話だと思うかもしれませんが、フンコロガシって卵を糞に産み付けて、その糞の中から成虫として生まれてくるものですから、古代エジプトの人々は「この虫は無から形成されるのだ」と思っちゃったみたいなんですよね。
で、太陽って毎日西の地平線の下に沈むけれど、また次の朝ちゃんと東から昇ってくるでしょう? それを、「太陽は毎日地の底に沈み、何も無いところ(=地の底)から日々新しく創造されまた昇ってくる」のだと考えていた古代エジプトの人々は、再生と創造の神ケプリとこの虫を結び付けたようなんです。
ちょっとケプリのお姿拝してみます? もろフンコロガシですよ(´・_・`)

(創造と再生の神ケプリ。古代エジプト人のセンスを疑うレベルでフンコロガシ:By Jeff Dahl – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3288138


モルダバイト同様、リビアングラスもそれなりの価格で取引されてはいます。しかしやはり割と地味な色合いのせいか、モルダバイトほど高額ではありません。
したがって偽物もそこまで多くはありません。本物かどうかの見分け方はモルダバイト同様、石の中に気泡があるかどうかとか「もやもや~とした模様」があるかどうかですね。

(中に白い砂粒っぽいものが入り込んでいることもあるけれど、基本こんな感じの黄色い石リビアングラス:By H. Raab (User:Vesta) – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=486872


ま、今回は『テクタイト』と『インパクタイト』を分けてご説明いたしましたが、海外のサイトでもよほど鉱物学に重点を置いた情報を掲載しているところじゃない限り(タダの鉱物販売サイトは特に)、この2つは「同じもの」として扱われています(Wikipediaですら混同している)。

まぁどちらも隕石の衝突により生成される鉱物なので、同じものとして分類したくなる気持ちはあたしにもよく分かります。
ただ、せっかくの機会ですので、「実は2種類あるんだよ(本当はもっと細分化されている)」ということを、頭の片隅にでも留めておいて頂けますと幸いです。

では『テクタイト(インパクタイト)』のお話はこれくらいにいたしましょう。
それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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