
星をまとうと価値基準がとたんに変わる7月の誕生石『ルビー』。影武者も存在…
[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]
血のような赤さをまとうものだけが『ルビー』を名乗れるんだけど…
今回は7月の誕生石である『ルビー』のお話をいたしましょう。
ルビー(Ruby):和名「紅玉(こうぎょく)」、モース硬度はダイヤモンド(とモアサナイト)に次ぐ硬さである『9』を誇ります。ルビーという名前の語源はラテン語の “rubeus(ルべウス:赤色って意味)”です。名前からして赤い石ってことですね。
ルビーは『サファイア』と同じくコランダム(和名「鋼玉:こうぎょく」)という鉱物に属する石です。コランダムの化学組成はAl2O3、要するに酸化アルミニウムなのですが、このアルミニウムが少量(5%以上)のクロム(Cr)に置き換わる(専門用語で「置換(ちかん)」と言います)ことによって、赤色に発色するようになります。
※余談ですが、アルミニウムが完全にクロムに置き換わってしまう(Cr2O3になる)と、『エスコライト(Eskolaite)』という全く別の鉱物になります。色も赤ではなく黒っぽい緑色の石になるんですよ。

『サファイア』の時にも申し上げましたが、ここで今一度おさらいです。
コランダムという鉱物の中で『血のように赤い色をしたもの』を『ルビー』と呼びます。ルビーはコランダムの構成元素であるアルミニウムの一部がクロムに置き換えられることによって赤く発色すると先ほどご説明いたしましたが、その「赤く発色している石」全てが「ルビー」というわけではありません。
ルビーとは「血のように赤い色をしたコランダム」にのみ冠される名称です。(“Ruby is a blood-red colored gem variety of the mineral Corundum.”)
それ以外の赤系の色、例えばピンクがかった赤色のコランダムは「ピンクサファイア」と呼ばれるべきなんです。
最近ここらへんの線引きが宝石業界でもあいまいになってきておりますが、一応定義としてはそうなっているんだということを皆さんも頭に入れておいて下さいね。
※紫乃女注:ルビーの色の定義があいまいになってきているのは『国際カラージェムストーン協会(the International Colored Gemstone Association:通称“ICGA”)』などの業界団体が「血のように赤い色以外の、もっと明るいピンクがかったやつとかもルビーの範疇に入れようよ!」と騒いでいるせいです。
まぁ血のように赤いルビーなんてコランダム全体のほんの一握りですし、ルビーは需要の多い石ですから、色の定義を広げたい気持ちはわかります。
わかりますが、世の中にはやっていいことと悪いことがあるのです。鉱物学的にはルビーの色として認められているのは下図の4色です。真っ赤以外も入っているのは『スタールビー(※後述します)』をルビーとして認めているせいです。
この範囲を超える色のものでスター効果も無いコランダムはすべて『サファイア』として扱うべきでしょう。サファイアならピンクでも黄色でも紫色でも緑色でも、なんでもござれになるからです。

「血のように赤いってどんな色のことだろう?」と思われる方もいらっしゃることでしょう。ちょっと大きめの写真でお見せしましょうかね。


綺麗でしょう?これどちらも非加熱ですよ。お値段は日本円で4000万円を軽く超えます。うひょー!ヾ(´▽`)ノ

これが本当のルビーの色です。これこそが「pigeon blood(鳩の血)」と呼ばれた最高グレードの色です。でもまぁこんな色のルビーはめったにお目にかかれませんよ(お目にかかれても超お高い)。ピンク色のコランダムをルビー呼ばわりしたくなる業界の気持ちも少しはわかりますね(´・_・`)
さっきちょっと「非加熱」って単語を出しましたが、市場で一般的に流通しているルビーはたいてい加熱処理が施されています。お手頃(?)価格のルビーはほぼ100%そうでしょう。透明度を上げたり色を赤く改善したりするために1300度~1600度ほどで20~30分間加熱されることが常です。
そして『ダイヤモンド』の時と同様、小さな傷や穴には鉛ガラスが充填されます。あらかじめ色をつけた鉛ガラスを用いてルビーの色や透明度を劇的にUPさせることもあるんですよ。
ただまぁそういう人工処理が一切施されていないのに赤くて透明度が高いルビーはお値段も超お高いので、お手頃価格で入手したい以上、こういう処理もしょうがないっちゃーしょうがないとは思います。いやぁ世の中は世知辛いということですな!(´・_・`)
色や透明度が二の次で評価される宝石もあるんです。
さて、気持ちが滅入ったところで、気分転換に『スタールビー』のお話でもいたしましょうか。
まずスタールビーの「スター」とはどういうものなのかをご説明しましょう。
「スター効果(アステリズム効果)」とは、その名の通り、カットした宝石の中に「星」のような光の筋が見られることを指します。

これがなぜ起こるのかと申しますと、スタールビーの中に『ルチル(金紅石:きんこうせき)』という細長い針状の結晶になった別の鉱物が混ざりこんでいるせいです。単に混ざりこんでいるだけではなく、そのルチルが2方向から3方向の平行に並んだ状態で混ざりこんでいる場合にのみ、この「スター」と呼ばれる光の効果が発生します。
この効果を得たければ、その宝石はカボション(上記の写真のような半球形のこと)にカットされなければなりません。こういうカボションカットにされた場合、その半球形の表面がレンズと同じ働きをして、入ってきた光を石の中で平行に並んでいるルチルに反射させて、こういう「スター効果」を生み出すのです。
ルチルが2方向に並んでいれば4条の光、3方向に並んでいれば6条の光が発生します。ちょっと難しいなと思われる方もいらっしゃることでしょうけれど、これ以上簡単にご説明ができないんです。すみません(´_`)
まぁ要するに、石の中に、超細い針金みたいな別の鉱物が、何方向かに綺麗に整列して混ざりこんでいた場合、石を半球形にカットして光に当てると、星みたいな光の模様が出ることがあるよってことですね。

石の中に「別の鉱物」が縦横無尽(まぁルビーの場合主に3方向だけど)に入り込んでいるわけですから、当然その石の透明度は下がります。
カットも半球形にしなければスター効果は得られないのですから、スタールビーはどれもこれも不透明で(透明のものもたまにある)、カボションカットのものばかりです。おかげさんで、スタールビーは一見地味に見えますが、光が当たった時のみ、「血のように赤く、素晴らしいカットが施されているルビー」に負けない輝きを放つんですよ。

スタールビーの場合、この「スター効果」に最も重きが置かれます。色や透明度は二の次です。スターがゆがんでおらず(中のルチルがまっすぐに並んでいる)、等間隔で美しい星模様が出るものは、ルビー自体の色が少々ピンクだろうが紫色だろうが不透明だろうが構わないのです。「スターが綺麗に出ているかどうか」が全てと言っても過言ではないですね!(´・_・`)b


ですので、「ルビーは好きだけれどお高くてとても手が出ないわ…」とお嘆きの方は、スタールビーを探してみるというのもひとつの手だと思います。それも赤色を避けてピンク色とか紫色の品を探すんです。
赤色以外のルビーの市場価格は本来の赤色に比べればどうしても低くなりますし、スタールビーはカットが1種類と決まっているのでカットに掛かる費用も低いです。
そのため、光が当たらなければ地味な石に見られますが、「あら?何の石?」と不躾な輩に尋ねられた際には、静かに微笑んでその石を光にかざせばよいのです。途端に現れる6条の星の輝きに、無礼なお相手は口をつぐむことでしょう。
普段は清楚な振りをしていながら、出番が来れば誰よりも光を放つだなんて、7月生まれさんにはぴったりじゃないですか!ヾ(´▽`)ノ ← 注:褒めています
プロでも現物を見ただけでは判別できないほどの影武者
…なにやら不穏な空気になってきましたので、ここでルビーのそっくりさんをご紹介いたしましょう。『レッドスピネル』さんです。皆さん拍手でお迎え下さい。

「同じ石だろこれ!」というツッコミはご遠慮下さい。ちなみに左側がレッドスピネル、右側がルビーです。写真だから同じに見えるんじゃなくて、現物の段階ですでに同じに見えるんです。一切手を触れずにどっちがルビーか当ててみろと言われたら、あたしでも無理ですよこれ。
『ペリドットとスピネル』の記事の際に、イギリス王家が所有する「黒太子のルビー」が本当はスピネルだったっていうお話をご紹介いたしましたが、このそっくり具合では、無理もない話だと思いますね(´・_・`)

※紫乃女注:手を触れて構わないならスピネルとルビーを見分けることは可能です。スピネルは単屈折(たんくっせつ:入った光がそのまま1本の光として進むこと)で、ルビーは複屈折(ふくくっせつ:入った光が2本に分かれて進むこと)なので、その石を光にかざしてどの角度から見ても赤い色にしか見えなければそっちがスピネルです。あとは単純に2つの石をこすり合わせてみるとかね。モース硬度が違うので、傷のついたほうがスピネルです。ただまぁそんなことをすると店主さんが大激怒なさると思うのでやめておいた方が良いでしょう。
ま、日本国内のお店でスピネルをルビーと偽って販売していることは無いでしょうし、その石についている鑑別書を見れば一発ですから、日本国内なら「ルビー」と偽って違う石を掴まされる可能性はほぼ無いと思いますね。
※紫乃女注:ダイヤやサファイアなどと同様、ルビーにも『合成(人工)ルビー』はございます。ただまぁこれも鑑別書を見れば一発で分かります。逆に言うなら、鑑別書も見ないで高い買い物をするなということですね!
赤から連想される意味は意外にも守護神的なものだった
さて。そろそろルビーの伝承についてお話いたしましょうか。
ルビーは聖書の中で12回も言及されるほど、昔から貴重な宝石として人々に愛されてきました。
聖書だけではなく、古代インドではクリシュナという神様にルビーを捧げる者は皇帝として生まれ変わるという言い伝えもあるんですよ。ちなみに古代インドの共通語であるサンスクリット語の“ratnaraj”(ラトナラジ)という言葉は“king of the precious Gems”(貴重な宝石の王)という意味なんですが、これはルビーを指しています。
そのほかにもビルマ(今のミャンマー)では、血と同じ色のルビーを身体の左側に着用する戦士には敵の攻撃が通用しない(無敵になる)と信じられていたようです。
なにせ色が赤い石なので、どの伝承においても、ルビーは炎や火、血と関連付けられることが多いんです。古今東西問わず、ルビーは出血を伴う傷や炎症の治療に使われたり、『余計なもの』『不要なもの』『疎ましいもの』を排除する(※火の特徴として『ありとあらゆるものを舐め尽くす』というものがありますのでその派生だと思われます)ことに利用されたりしてきました。
一例を挙げますと、自分が所有する土地の四隅にルビーを触れさせると、その土地は雷や暴風雨、火事などの災厄から逃れられるだろう…という言い伝えがあります。所有者に迫る危機や災厄(=所有者にとって不要なもの・疎ましいもの・遠ざけたいもの)をその火の力で焼き尽くし、所有者が流血沙汰になることを避けるという感じですね。
赤い石だからその意味合いもさぞ攻撃的なんだろうと思われがちですが、意外と防衛に特化しているんですよ。つまりルビーとは余計な争いごとを避けたい人や、無駄に傷つきたくない人にはお勧めの石だってことですね!ヾ(´▽`)ノ

おっと、結構話し込んじゃいましたね!
では『ルビー』のお話はこの辺でおしまいにいたしましょう。
それではまた!

1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら
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