希少度ならダイヤの20倍の『エメラルド』、手に届く最高のものを見つける方法

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

語源はドシンプルだけど、原形をとどめていないように思うかも

今回は5月の誕生石である『エメラルド』のお話をいたしましょう。

エメラルド(emerald)和名:翠玉(すいぎょく)・緑玉(りょくぎょく)モース硬度は7.5から8程度。ちなみにモース硬度7以上だと、ガラスや鋼鉄に傷をつけることができるんですよ。

エメラルドはベリル(緑柱石:りょくちゅうせき)という鉱物の仲間です。化学組成自体は、以前この連載でご紹介したことのある『アクアマリン』とほぼ変わりませんが、不純物として「クロム(Cr)」や微量の「鉄(Fe)」、「バナジウム(V)」が混じりこんでいるせいでこんな緑色の石になりました。まぁ例外もありますが、「クロムが混ざると大体緑色の石になる」と覚えておかれると良いでしょう。

「エメラルド」という名前は、古代ギリシャ語の“σμάραγδος”(スマラードス:「緑色の宝石」って意味)という言葉が語源となっています。

「なんで『スマラードス』が『エメラルド』になるねん」と疑問に思われる方もいらっしゃることでしょう。
どのように言葉が変化していったのかを一応ご説明しておきますと、
古典ラテン語“smaragdus”→中世ラテン語“esmaraldus/esmaralda”→古典フランス語“esmeraude”→中世英語“emeraude”→現代英語“emerald”…という流れです。
まぁなんにせよ『緑色の宝石』という意味に変わりはありません。


エメラルドは歴史の古い石です。
古代エジプトの時代、約紀元前1500年ごろから、エメラルドはエジプトの東部砂漠にある「スマラードス山」(Smaragdus:“g”の音は発音しない)で採掘されていました。この山の名前がエメラルドの語源となったわけです。

西暦14世紀ごろからインドやオーストリアでも採掘が始まりましたが、現代では南米のコロンビア共和国が世界最大のエメラルド産出国となっています。

(エメラルドの原石)

まるで人の手が入ったような車輪模様もあります

そうそう。
コロンビアで採掘されるエメラルドの中には面白いものがございましてね。
「トラピッチェエメラルド(Trapiche emerald)」っていうんですけど、エメラルドの中に黒い車輪のような模様があるんですよ。ちょっと写真をお見せしましょうか。

(黒い放射線状の模様があるトラピッチェエメラルド)


「トラピッチェ」っていうのはスペイン語で「製糖(サトウキビから砂糖を作ること)工場」って意味です。下図の赤く囲っている部分をご覧下さい。

(サトウキビを絞って液を抽出する製糖工場。エメラルドの黒い模様が製糖工場の車輪に似ているから「トラピッチェエメラルド」という名前になった。
By Diderot & d'Alembert – Traction animale (Encyclopédie de Diderot et d'Alembert, 1762), CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15883867


トラピッチェエメラルドの黒い車輪部分は何なのかと申しますと、まぁ一言でいうと「泥」ですね。ちゃんと言うなら「頁岩(けつがん)」っていう堆積岩(たいせきがん)の一種です。細かい泥の粒子が水中で積み重なり固結して出来上がった岩石のことですね。

(頁岩:この石の中から古生代カンブリア紀の化石が見つかることがよくあるんだよ!)


この泥の石がエメラルドの間に放射線状に入り込んだものが「トラピッチェエメラルド」です。エメラルドの中でも変わり種で人気の高い石ですね。
コロンビア産のものがほとんどで、偽物はまずありません。お値段もグレードにこだわらなければそれなりに美しい模様の品が25万円以下で入手可能だと思います。一度探してみられてはいかがでしょう?

(トラピッチェエメラルドの原石:By Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10447399


まぁ、こういう変わり種はともかくとして、前回の『ダイヤモンド』もお高い石でしたが、エメラルドも本来は負けず劣らずのお値段を誇る石です。(希少度だけならエメラルドはダイヤモンドの約20倍なんだぜ!)

傷だらけのローラ、もとい、エメラルド。4000万円でも無傷にはならず

実はエメラルドは「傷の無いエメラルドを見つけることは欠点の無い人間を探すことよりも難しい」と言われるほど、クラッキング(欠けや割れ・傷)の多い石なんですよ。ですのでクラッキングが少ないエメラルドはそれだけでお値段が跳ね上がります。

(日本円で4000万円前後の超お高いエメラルドにもクラッキングはある)


逆に言うなら、10倍ルーペで調べた際に、クラッキングが全くと言っていいほど見つからないエメラルドは、本物ではない可能性がぐっと高くなります。
またはクラッキングはないけど気泡があるとかね。気泡があった場合、かなりの高確率でそれはタダの色付きガラスです。

まぁよほどのことが無い限り、素人さんでもそこまでひどい模造品に引っかかることはまず無い(海外だったら大いにありうるのでご注意を!)でしょうけれど、誕生石に設定されていて人気が高く、美しければ高額で売りさばけるということは、『ダイヤモンド』の時と同じように、エンハンスメント(人工的な処理)が施されることが多いってことなんです。

たとえば、色合いを美しく改善するための加熱処理や、クラッキングを目立たなくさせるために無色透明のオイルや樹脂を染み込ませる含浸処理などは普通に施されます。
市場に出回っている「お手頃価格のエメラルド」には、この2種類のエンハンスメントが行われていると思っておいてほぼ間違いはないでしょう。

個人的には、ルビー・サファイア・エメラルド・ダイヤモンドに対して施される一般的なエンハンスメントに関してはもうしょうがないと思っています。そういう人工的な処理を一切施していないのにもかかわらずそれなりに美しい石の場合、それ相応のお値段がするものだからです。

お手頃価格で美しい石を手に入れたいなら、一般的なエンハンスメントには目をつぶらざるを得ません。天然モノにこだわるくせにお代は出来るだけ払いたくないだなんて、そんな駄々っ子理論は宝石業界じゃ通用しないんですよ。

皆さんが「安物買いの銭失い」に陥らないよう、こうして一般的な処理に関してご紹介しているに過ぎません。「処理モノ=悪」と思いこまないようになさって下さい。

ただ、合成(人工)エメラルドを「天然エメラルド」と称して売りさばく連中も一定数存在しますので、ご購入の際には必ず鑑別書を確認するようになさって下さい。
鑑別書無しでエメラルドの真贋を判断したい場合、さっき申し上げました「10倍ルーペで傷や内包物を確認する」方法以外ですと、紫外線ライトを照射してみるっていう方法があります。エメラルドに紫外線を当てたら赤い光が見えた場合、その石は合成である可能性が高いですね。

宝石業界というプロ必携の道具でも、見破れない偽物

あとは「チェルシーフィルター(Chelsea filter)」という、宝石業界では「持っていて当たり前」レベルで普及している道具を使う手もあります。このフィルターは元々、エメラルドが本物かどうか判別するために1934年にロンドン商工会議所の宝石検査研究所(The Gem Testing Laboratory of The London Chamber of Commerce & Industry)にて考案された道具。
仕組みを簡単にご説明いたしますと、エメラルドかどうか分からない緑色の宝石を白色光の下でこのフィルターを通して視認した場合、その緑色の石にクロム(Cr)が含まれていれば赤色に、含まれていなければ緑色に見えます。

本物のエメラルドにはクロム(と微量の鉄)が含まれているはずなので、赤色に見えればその石はエメラルド、緑色のままならエメラルドではない(ペリドットとかグリーントルマリンとか グリーンベリル とか)というふうに判別することが可能になるのです。

まぁ、今時の合成エメラルドにはクロムが添加されているものもありますので、赤色に発色したからといって手放しで信じることは出来ませんけれどね。

まぁでも、10倍ルーペやチェルシーフィルター持参で宝石店に赴くのもどうかと思いますので、皆さんは素直に鑑別書を確認するようになさって下さい(´・_・`)←持参で赴く奴

(天然モノに見えるようわざとクラッキングを入れた合成エメラルド。酷い話だよ!)

「目によい」はまだしも「コレラにも有効」まで言われた

あまりエメラルドの真贋の話ばかりしていても気が滅入りますので、ここらでひとつ、エメラルドの歴史の話でもいたしましょうか。

世界最古のエメラルド鉱山はエジプト東部にありましたので、世界で最初にエメラルドに価値を見出したのは当然古代エジプトの方々です。
有名どころですとクレオパトラさんね。あの方はこの緑色の宝石に大いに魅了され、王室の装飾品として多用したそうです。エジプトを訪れる外国の高官さん達にもプレゼントしまくったんですって。羨ましい話ですよねぇ!

古代エジプトの神話では、エメラルドは「不死と再生」の象徴でした。古代エジプトの方々は位の高い方が亡くなると、その人をミイラにした後、故人が神々の国で永遠の命を得られるようにエメラルドを使った装飾品と共にミイラを埋葬しました。

(エメラルドと金のネックレス:メトロポリタン美術館所蔵)


歴史的に「緑色の宝石」というものは、「毒消し」の効果があると信じられることが多いものなんですが、エメラルドもその美しさだけではなく「この石は薬効のある宝石だ」と認識されていたようなんです。

一例を挙げますと、古代ローマのプリニウスという博物学者さんは『博物誌』という彼の著作の中で「エメラルドを見ること以上に目を癒すものはない」と述べていらっしゃいます。
この『博物誌』という全37巻にも及ぶ著作は英語にもフランス語にも翻訳されて、「歴史的な基本図書」としてヨーロッパで広く愛読されちゃったものですから、「エメラルドはめっちゃ目にええ石なんや!」という認識も同時にヨーロッパ中に広まっちゃったというわけなんです。

まぁ緑色っていうのは目に優しい色ですしね、あながち間違いではないでしょうけれど、「コレラ(コレラ菌による細菌性感染症)やマラリア(マラリア原虫を持った蚊による感染症)にも有効だ!」っていうのはちょっとやりすぎだとは思いますね(´・_・`)

また、別の伝承では、エメラルドは神から直接ソロモン王に与えられた4つの宝石のうちのひとつだと言われているんです。

オカルトや魔術に興味がおありの方ならよくご存じだと思いますが、ご存知じゃない方のためにざっとご説明いたしますと、この王様は「ソロモン王の指輪」と呼ばれるアイテムの力によって、数々の悪魔や悪神、精霊を喚び出し、使役したと言われている人なんですよ。
その指輪を身に着けていれば動物と会話することも可能だったんですって。もしかするとその指輪にはエメラルドが飾られていたのかもしれませんね!

本当に美しいエメラルドをお手頃価格で手に入れる方法

オカルトっぽくない伝承ですと、エメラルドは「復活と誕生」を象徴する石だと言われてきたのですが、「神の御子の誕生と復活」が重要なキーになるあの宗教の聖職者さん達にエメラルドは当然大人気で、大司祭の胸当てにこの石を飾ったり、経典の一節を彫りこんだりして大切に扱ってきたそうです。

また、この石を舌の下に置いた者は未来を予見し、真実を明らかにし、邪悪な呪文から保護される能力を得ると信じられていたのですが、壮大な能力のわりには「恋人の誓いが真実であるかどうか」を見分けるために使われることが一般的だったようですね。いやはや、いつの世も人が考えることは変わらないということですな!ヾ(´▽`)ノ

(コロンビア産のエメラルドが飾られた装飾品:スペインの聖職者が身に着けていたもの。ヴィクトリア&アルバート博物館所蔵)


「話を聞いていると素敵な宝石らしいけれど、お高いからとても手が出ないわ…」とお嘆きの声がここまで聞こえてきそうですが、そんなあなたに朗報です。

さっきの話を思い出して下さい。自分の舌の下にエメラルドを置いて、その状態で恋人に自分への気持ちを語らせるわけですから(相手がしゃべっている間、自分はずっとエメラルドを舌の下に保持したままの状態)、舌の下に置かれるエメラルドはかなり小粒である可能性が高いです。こぶし大のエメラルドなんか口に押し込まれたら窒息してしまいますしね!

それにエメラルドはクラッキングが非常に多い石なので、大粒になればなるほど傷や割れが目立ちます。
ということは、エメラルドを一番美しい状態で庶民が所持しようと思ったら、「1カラット程度のエメラルド一粒」または「1カラット未満のエメラルドの集合体」を手に入れるのが得策なのではないでしょうか。

(つまりこういうこと。クラッキングが全然目立たないでしょ?)


1カラット程度の天然エメラルドが一粒プラチナ台にセットされているようなものなら、色がかなり濃いものであったとしても10万円以下で入手することが出来る場合がありますので、エメラルド好きな方は諦めずに良い品を探してみられてはいかがでしょう?
(海外の信用できるセラーから、鑑別書付きの ありふれたカットのエメラルドルースを買ってきて、プラチナや金の台座を国内で入手してそれにセットしてもらうと安上がり。そういう台座販売&台座セットサービスのお店も結構あるから探してみてね!)

おっと、話が長くなってしまいましたね。
では『エメラルド』のお話はこれくらいにいたしましょう。

それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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