11月の誕生石【トパーズ】は、世界的機関が偽物扱いするものこそ本物!?

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

化学式は一応紹介じゃあありません。今回はちゃんと見てください!

さて今回は、11月の誕生石でもある【トパーズ】のお話をいたしましょう。
 
ああ、とうとうこの日が来てしまいましたか…。出来ることならトパーズは避けて通りたかった石なんですよねぇ。いや、綺麗な石だとは思いますよ? でもこの石を説明しようと思ったら、ややこしい化学組成の話を先に済ませちゃわないといけないんです。
ああ、気が重いなぁー(´_`;)

…愚痴っていてもしょうがない。気持ちを切り替えて話を先に進めますよ! トパーズ は和名:「黄玉(おうぎょく)」。モース硬度は8程度。結構硬い石ですね。

この石の名前の由来には諸説あります。紅海(アフリカ東北部とアラビア半島に挟まれた細長い湾)に浮かぶ小さな島(Τοπάζιος島:英語で言うならセントジョーンズ島)の名前が元になったという説が最有力候補ですね。

トパーズの化学組成(その石がどういう元素で出来上がっているのかを示した式)は「Al2SiO4F2です。

はい、化学組成の話が苦手な皆さん、お気持ちは分かりますが、大事な話ですので尻込みしないで今一度式をよく御覧ください。

トパーズの化学組成はAl2SiO4F2です。最初の「Al」っていうのは「アルミニウム」のことなので、トパーズとはアルミニウムを含んだ鉱物(ちゃんというならケイ酸塩鉱物)なんだなってことは、わりと簡単にご理解頂けることでしょう。

問題なのは式の最後です。「F」って出ていますよね? Fとはフッ素(虫歯予防に役立つアレ)のことですので、トパーズとはアルミニウムとフッ素を含んだ鉱物(ケイ酸塩鉱物)だということになります。ここまではよろしいでしょうか?

はい。では皆さん、お手許のPCなりスマホなりで「トパーズ Wiki」とググってみましょう。ウィキペディアのトパーズのページが、すぐにヒットすることでしょう。では、そこに示されているトパーズの化学組成をご覧頂けますか?

ウィキペディアには「トパーズの化学組成とは『Al2SiO4 (F,OH)2である」…と書かれていると思います。さっきあたしが「これがトパーズの化学組成だ!」と示した式『Al2SiO4F2』とは、最後の部分がちょっと違っていることにお気づきになられましたか? この最後の部分の“ちょっとした違い”が、実はトパーズという石そのものに関わる重大な違いとなってくるのです。

国際的機関と世界最大のデータべースは、OHタイプを正式と認めてない

できるだけ簡単に内容をご説明いたします。トパーズという石は、アルミニウムとフッ素が含まれる鉱物なんですが、この「F:フッ素」が「OH:水酸基(すいさんき:1個の酸素原子と1個の水素原子が結合したもの)」に置き換わっちゃう(専門用語で『置換(ちかん)』と言います)ことがございます。

ちょっと分かりやすく図にしてみましょうか。【トパーズ】を、仮に様々な要素から構成される「りんご」であると考えてみましょう。
そのりんごの構成要素のひとつであるフッ素が、水酸基(OH)に置き換わってしまうとこうなります。


この2つを「同じりんご」であると言い切るのはちょっと難しくないですか? 味も絶対に違うと思いません?

実際、「F(フッ素)タイプ」のトパーズと「OH(水酸基)タイプ」のトパーズとでは、光の屈折率が違います(Fタイプのほうが屈折率が低い)。その差約0.02。小さい値のようですが、実態は「同じ鉱物とは思えないくらい」大きな差なんです、これ。

そういう場合、普通はガーネットみたいに色や屈折率ごとに「ロードライトガーネット(屈折率1.76)」「グロッシュラーライトガーネット(屈折率1.74)」って名前分けしてくれればまだ分かりやすいんですが、トパーズの場合はそういう区分が無いんです。

「区分が無いって…、じゃあどうやって区別しているの?」という戸惑いのお声がここまで聞こえてきそうですが、驚くなかれ。IMA(国際鉱物学連合)とMINDAT(世界最大の鉱物データベース)では、OHタイプのトパーズを「トパーズ」として認可していません。

「トパーズのフッ素が水酸基に置換した鉱物があり、その鉱物は“慣習的に”『トパーズ』と呼ばれている」とは認めていますが、その鉱物に独自の名称をつけていないのです。つまり非常に厳しい言い方をするのなら、OHタイプのトパーズの鉱物名は「トパーズ」ではないということになります。

(IMAの鉱物リスト:赤枠の中をご注目下さい。トパーズの化学組成に“OH”はありません。)

(MINDATの鉱物データベースの一部:OH置換タイプのトパーズは「Unnamed(名称無し)」とされています。つまり【トパーズ】という名称はOHタイプには適用されません。)

黄金色こそトパーズの中のトパーズ

話がこれで終わりなら、あたしは別にトパーズの解説を避けて通りたいとは思いません。「OHタイプのトパーズは厳密に言うならトパーズじゃないんです。残念でしたねー」で済むからです。
でも、そうは簡単に問屋が卸してくれないから困っているんですよ(-“-)

ちょっといったん化学組成の話は、頭の片隅に放り投げましょう。皆さんは【トパーズ】と聞けばどのような色の石を思い浮かべますか? 多くの方は、鮮やかな青色の石を思い描くのではないでしょうか?

(スイスブルートパーズ:無色のトパーズを照射処理+加熱処理で青く変化させたもの)
(ロンドンブルートパーズ:無色のトパーズを照射処理で青く変化させたもの)

実は、青いトパーズというのはレアです。こんな鮮やかな青は天然ではありえません。天然で青系のトパーズが出たとしても、普通はせいぜい淡い水色です。それすらも非常に珍しいことですが。

トパーズは和名が「黄玉」であることからもわかるように、本来は黄色、淡い褐色(シェリー色)、オレンジ色の石です。まぁ無色のものが多いですけれどね。

レアな色としては、前述の淡い水色以外に薄いピンク色もあります。ただし濃いピンク色や赤色のものは、たいてい照射処理や加熱処理が施されていますが。

まぁトパーズは未処理のものを探すほうが難しいくらいなので、流通しているトパーズはほぼ100%人工処理によって色が変えられていることは、もうしょうがないと諦めたとしても、「これぞ『トパーズ』の王道!」と言える色はやはり黄色、それも黄金色でしょう。通称「インペリアル(皇帝の)トパーズ」と呼ばれるトパーズです。

(黄金色に輝く天然インペリアルトパーズ:ブラジル産 非加熱・無照射処理品!

国際機関が認めない偽物が、愛好家に最も好かれている

では、話を先ほどの「化学組成」に戻します。
このインペリアルトパーズ、実は「OHタイプ」なんです。IMA(国際鉱物学連合)にもMINDAT(世界最大の鉱物データベース)にも「トパーズの『亜種』」呼ばわりされている「OHタイプ」のトパーズなんです。
しかし、このインペリアルトパーズこそが、最もトパーズらしい色をしたトパーズなんです。
トパーズ愛好家に最も人気が高い「皇帝のトパーズ」なんですよ!o(><o)(o><)o
 
さらに困ったことに、「レアな色だから」って理由で人気が高い『ピンクトパーズ』も「OHタイプ」であることが多いんです(たまに「Fタイプ」のこともある)。

(ピンクトパーズ:パキスタン産)

トパーズっていう鉱物は光に弱く、長い間紫外線に当たっていたりするとどんどん退色していって、最後には無色透明になっちゃうんですが、この「OHタイプ」のトパーズは屈折率が高いこともあり、光に当たり続けていても退色しません。

ブルートパーズは中性子線やガンマ線などを照射したり加熱したりして青くしている石ですから、まぁ人工着色されているようなものですので退色しません。それ以外の『本来のトパーズ』、IMAやMINDATに認可されている「Fタイプ」のトパーズは、光にとても弱いので、気軽に指輪やアクセサリーとして身に着ける用途には向いていません。

つまり「誕生石」として11月生まれさん達に愛でて頂きたいトパーズは、人工処理がガンガンに施されているトパーズか、IMAにもMINDATにも認可されていない「OHタイプ」のトパーズだってことになっちゃうんですよ!o(><o)(o><)o
  
「ええー…」という困惑のお声がここまで聞こえてきそうですが、あたしだって困っています。どうしたらいいのこれ!

最初はそういう小難しいことを一切伏せて
「トパーズって綺麗な石ですよねーヾ(´▽`)ノ」の路線でこの記事を終わらせようかとも考えたんですが、そういう無難なことはわざわざあたしがやらなくても、他の方々がもうすでになさっているでしょ?

で、他の方々がなさらないツッコミを鋭く入れるのが関西人たる『紫乃女』じゃないですか。でもこれあんまりっちゃーあんまりな内容だし、
本当にもうどうしよう!?o(><o)(o><)o

ま、あたしがいくらジタバタしても事実は事実なのでどうしようもありません。IMAとMINDATさん、早いとこなんとかして下さい(´・_・`) Let’s 他力本願!

迷える子羊たちの「お守り」的存在

では気分を切り替えて、トパーズの伝承についてお話いたしましょうか。
 
古代ローマ人は、トパーズが旅行中の危険から所有者を守る石だと信じていたそうです。中世ではトパーズを左腕(左手)に付ければ呪いや邪悪なものから身を守れると言われていました。

他にも「怪我から所有者を守る」とか「毒を盛られた食べ物や飲み物のそばに置くと、石の色が変わる」とか「夢遊病(睡眠の途中で起き上がったりするも、何も覚えていない病的症状)を治す」とか「炎症を抑える」とか色々ございます。イギリスでは「トパーズは狂気を癒す」なんて言い伝えもあるそうですよ。

面白いのは「着用者を他人の目に映らないようにする」と「所有者の視力を改善する」という二つの言い伝えがあることです。これ、トパーズを所持して他人の目には映らない者となった人 VS トパーズを所持して視力が上がった人 の戦いになった場合、どちらに軍配があがるんでしょうね? 興味津々ですよ!

ま、そんなわけで話をまとめますと、古今東西時代を問わず、トパーズは「所有者を危険や災難から守る石」「所有者が常軌を逸した状態になったらそれを戻す石」だと考えられていたようです。

つまりはまぁ「人生の羅針盤」、今風に言い換えるならGPS、カーナビみたいな感じですね。あなたを危険や災難から守りつつ、道を外れないようにエスコートして、無事目的地まで安全に送り届けることこそが、この石の力ではないかとあたしは思います。

この世の全てに見捨てられ、失意のどん底に沈み、お先真っ暗だとあなたが思う時ほど、この石は「さぁ、俺を頼りに一歩踏み出してくれ。ちゃんと安全なところまで送り届けるさ!」とあなたを励ましてくれることでしょう。

では「トパーズ」のお話はそろそろおしまいにいたしましょう。
それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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