職業、開拓業。大手企業エリートから一転、人生どん底から自分軸をシゴトにしたワケ【後編】
前回【前編】では、三宅氏の総称である「開拓業」とは何か。そして、大手企業の幹部候補生から一転、左遷、降格、減給・・・ジェットコースターを下るようなサラリーマン人生の「きっかけ」になった出来事についてお伝えしました。
【前編】はこちらからご覧いただけます。
https://digi-den.net/2024/01/21/174/
今回【後編】では、島流し、転職、ついに会社員を辞め、起業支援のコミュニティを立ち上げるに至った経緯や、三宅さんの「自分軸」にあるもの、そして、ここからのご活動についてお伝えします。(佑貴)
現場を、個を、大事にする
――大手企業での会社員時代について伺っていますが「現場を大事にする。現場の人とコミュニケーションをとり、ホンネを伝える」という姿勢は、その時から三宅さんの軸にあったのですね。
三宅:「現場を大事にする」は、僕の揺るぎない信念です。会社で人生を変える出来事があり、降格になって本社から支店に戻された時期があります。でも僕はむしろ、その方が生き生きしていました。町の電気屋さんとじっくり話したり、売り出し応援に行ったり。一人ひとりの生の声を大事にしたいし、現場で働くことにやりがいを感じます。時には、担当の営業マンを飛ばして、小売店と直接やり取りをすることもありました。「当事者と当事者とで話した方が早い」という考えからですが、そんなことをすると、組織を重んじる人とは衝突しますよね(笑)。
「個」を大事にしたいんです。会社は、組織が大きくなると個人を見なくなります。本来は一人ひとりの力でチームがつくられているはずなのに。「個」が埋没すると、人は仕事に楽しさを見出せなくなります。そう考えるから、僕にとって今の仕事が一番ですね。起業・複業支援のコミュニティでも「一人商い(ひとりあきない)」を推奨しています。「個を尊重した場づくり」この軸にこだわり続けています。
仮に、あのまま会社員として組織を上手く泳いでいたら、役員になっていたかもしれません。同じ立場だった同期はそうなりました。「負け犬の遠吠え」ですね(笑)。「会社の地位って何だ !?」って心底思ったことがあります。幹部にまで上り詰めて退職した先輩と、今でも年賀状のやり取りがあります。そこには「引退したら何もなくなった」というようなことが書かれていました。すごく優秀で、すごく頑張って現場から役員まで上り詰めた先輩でも、会社で役目を終えるとそうなるのかと、考えさせられました。
組織で働くために、本来の自分の身に纏(まと)っている「余計なもの」。それは、自分を成長させるために必要な時期が確かにあるでしょう。だけど「いつまでも引っ張るな」 と言いたい。どこかで脱ぎ捨てて「今、あなたの人生を、あなたが舵取りする時だよ」と伝えたいです。
大企業を辞めて、ベンチャーへ、そして「会社員」を辞めた!
――会社員時代の話をもう少し伺ってもいいですか? 大手家電メーカーで人生を変える事件が起きた後、三宅さんはどのような経験をされたのでしょうか?
三宅:社長に直言して、降格、減給。各部署をたらい回しにされる「島流しの旅」は、2、3年続きました。僕は「出る杭(くい)の典型」みたいな男で、「誰も手がつけられない三宅」と幹部筋では有名だったようです(笑)。
最後に転勤した支社には、部下いじめで悪評高い支社長がいて、強烈なパワハラに合いました。毎日毎日人格否定の繰り返しで、言葉の暴力を浴びせられ、心が壊れかけました。思い返せば「うつ」状態でした。「もう死んだ方がいい」と追い詰められたこともあります。これ以上はもたないと思って、会社を辞めました。
その後、ベンチャー企業創業に参画し営業部長になります。そこでの経験はすごく「濃かった」。当初、一匹狼のような営業マンを纏めるのは至難の業でした。「一人ひとりとじっくり話す」のが僕のポリシーで個別相談の時間を設けるけれど、「何やってるんだよ、お前。この忙しい時に無駄なこと」という否定的な反応が続きました。ところが、会社が倒産しそうだという空気がまん延すると変化が起こります。「修羅場の共有」と呼んでいますが、バラバラだった皆の気持ちが纏まり出したんです。結局、リーマンショックの煽(あお)りを受け、三か月で倒産しましたが、強烈な「個」がチームとして一体になるという真髄を得る貴重な経験でした。
次に入った会社では、平社員の営業トレーナーに。毎日出勤するけれど仕事がない、周囲とのコミュニケーションも全くない。お昼はいたたまれず近所の公園で孤独な弁当・・・そんな職場で一年を過ごし「会社員、ここまでか」という気持ちが湧いてきました。妻に相談したら「もういいんじゃない」と言ってくれて、「会社」を辞めました。「起業しよう」じゃなくて「会社員を辞める」。そうしてスタートを切ったのが、僕の独立の第一歩です。
起業支援コミュニティの土台ができる
(三宅氏とフリーエージェントアカデミーの仲間たち 撮影:永田知之氏)
――会社員を辞めたことが、起業・複業支援にどのようにつながっていったのですか?
独立当初は「これがしたい」というものが一切なく、「とりあえず会社員を辞めて、その先は後で考えればいい」という勢いでした。まず、知人のフランチャイズを手伝ってみたけれど全く収入になりません。焦りながら、ヤフオク販売、フェイスブック集客代行、 婚活カウンセラー・・・一年半の間にあらゆることに手を出しました。
その間に「囲炉裏ワークショップ」という、囲炉裏を囲むイメージで自己開示をする場をつくりました。参加費2000円ほどで収益にもなっていませんが、これが僕の原点になっています。ある日「自分を棚卸しする」という内容のセミナーを受け、「自分の根っこを掘るって大事だ」と気づきました。それまで手当たり次第にやってきたけれど、うまくいかないのは「自分軸」がないからだと気づき、その頃から起業支援に軸足が向いていきました。
まずはマンツーマンのコンサルティングを始めます。クライアントが、二人、三人になり「忘年会やろう、暑気払いやろう」と集ううち、「集まると楽しいし、みんなが元気になる」と気づきます。仲間を増やしながら「月1回カフェみたいに集まろう」という場が自然に生まれ、今も続くコミュニティの基盤となりました。当初は、起業塾を主宰するなんて思っていませんでしたから、すべて成り行きなんですよ。
コミュニティの立ち上げは、決して僕一人の力ではありません。僕は旗を振ったり、背中をつついたり、プログラムの提供をしたりという立場にあるけれど、それぞれの個性を大切にしながら「みんなで高め合う」ことが必要だと、当初から思っていました。「フリーエージェントアカデミー(以下、FAA)」の大事な軸である「相互応援」もその頃に生まれたものです。
「教える」のではなく「場」をつくる
――起業支援や開拓業を進める中で、大切にしていることは何ですか?
三宅:「個人」にフォーカスして、目の前にいる人が持っている力を引き出すサポートを12年間やってきました。「起業支援」と「山の開拓」、一見別物のようだけれど、根っこの部分で繋がっています。余計なものを脱ぐと「本来の自分」があらわれて、それを「表現する術(すべ)」として起業がある。「自律的自由人」と呼んでいますが、「自律」するためには自分で商売ができた方がいい。 自分で商売しないと完全な自律はできないと考えています。
大事にしているのは、教えるのではなく、その人が「気づく場」をつくること。例えば「開拓で何が得られるか」を言葉で伝えるのが本意ではなく、本質は「感じて欲しい」「気づいて欲しい」です。気づくとは「その人の腑に落ちる」ことです。 腑に落ちないと「本物」にならない。そのための「場所」「ステージ」をつくる。 それは、小さなものかもしれないし、時には大きなものかもしれない。その人のその場面に添った環境を提供したいです。「はっと気づく瞬間」があるんですよ、人には。その「場」をどれだけ提供できるかを、常に探っています。
「展望」はない。なぜなら・・・
――「ここから何をしていくか」という展望と、「どんな人にどうなって欲しいか」を伺ってもいいですか?
三宅:「展望は?」とよく聞かれますが、実はそういう類(たぐい)を考えるのが苦手です。顧問税理士さんとも月1回のミーティングを重ねていて「先のことを考えましょうか」とアドバイスをもらうけれど・・・考えられないんです。「次はどこを目指しますか?」と質問されたら、「今やりたいことをやる」が答えです。
動いていると「これをやった方がいい」というアイディアが湧き、出会った人や出来事でやることが決まっていきます。
今考えているのは「別荘地とそこに居る人たちを盛り上げる」こと。別荘地の隣接地で開拓をしていて、住民との接点が増えています。別荘地の人たちって、すごいんですよ。70代、人生経験豊かで、知見があって。只者(ただもの)ではない人がいる。芸術家もいれば、元校長先生もいれば、自分でログハウス作った人もいればと、バラエティに富んでいます。彼らの持っているものを世の中に発信したいという思いが、ふつふつと湧いてきました。別荘地を盛り上げるための商売が何かできないかと、妄想しています。
別荘地の人たちにも、FAAのメンバーにも、「持っているもの」を外へ出して欲しい、輝かせて欲しいという想いは同じです。別荘地の人たちが「余生」を楽しくと考えているなら、勿体ない。「あなたの持っているものは世の中で役に立つ、必要としている人がたくさん居る」と伝えたいです。ご縁のあった人が輝ける「場」を提供したいと、常に考えています。
「人が好きなんですね」とよく言われます。「人間臭さ」や「義理人情」というのは、どうも僕の中に沁みついているようです。コミュニティは人で構成されています。人と人だからこそ嬉しい場面もあるし、いさかいや揉め事で大変な時もあります。でも、いつもFAAメンバーのことが頭から離れず、細かい出来事で一喜一憂しています。例えば、ご無沙汰になっているメンバーが心配になってメッセージを送り、すぐに返信が来て、嬉しくて安心するとかね。妻に「またメンバーの話をしているね」と言われるけれど、 もうこれは性分ですね。
開拓に完成は無い!
――三宅さんが一番楽しいと感じるのは、どんな時ですか?
三宅:開拓作業で何も考えず、頭が空っぽになっている時かな。開拓そのものが楽しいというより、一旦「真っ白」になると、いろんな発想が出てくるのが楽しいです。「ワクワク熱量」が無限に出てくるというのかな。「今まで知らない世界」と接するのが楽しいから、開拓にハマっているのかもしれません。
それと「自然の中に入る」のは大事ですよ、人間もやっぱり動物だから。自然の中で「素」になって動物の感性に立ち返るのが、答えを出すのに「一番早い方法」です。
山の開拓を進めていると「完成はいつですか?」とよく聞かれますが、完成は無いです。可能性がいくらでもあって進められるから。「拓いていく道の途中から、いろんなものが出てくる」から、その中で「ピン」ときたことを行動に移していきます。自分ができそうなこと・・・いや、できなくてもやるかもしれないね(笑)。
これからも僕は「開拓」し続けますよ!
「木と人をつなぐ」
https://kimusubi.fun/
「長野フィールド開拓の足跡」(動画)
https://www.youtube.com/playlist?list=PLkdz36JzNzmSgGIH86WrrXGy3mqBU_suG
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穏やかな語り口からは想像できないような「人生のどん底」を経験され、その厳しさは察するに余りあるものです。でも、その経験から「自分軸」を確固たるものにした三宅氏の言葉は、心の中にゆっくりと、深く入ってきます。
「真っ白になる」。最近の私にとって、頭の中、心の中を空っぽにする時間がどれだけあるでしょうか。「色」の話を少しだけさせていただくと、「白」は光の中のすべての波長域を反射するから見える色で、「無の色」であると同時に「すべてを含んだ色」といえます。頭と心が「真っ白」になる。それは「無」であると同時に「すべての可能性を含んでいる」、そんな言葉が浮かんできました。私はまだまだ「余計なもの」をいっぱい被っている気がします。「本当は必要で無いもの」を手放しながら、軽やかに人生を歩んでいきたいです。貴重なお話をありがとうございました。
(文責:佑貴つばさ)
本記事は「作家たちの電脳書斎デジタルデン」編集部作成、2022年9月6日掲載記事を転載したものです。内容・状況などは記事作成当時のまま掲載しています。